パンタナールの旅Ⅶ 森の演奏家の寂しさ (2011/06/14)
「ちょっと、うちに来ないか」誘われるままに後を行くと椰子の葉で吹いた、掘っ立て小屋に行き着いた。周囲にある他の労働者の家は、壁もコンクリートで塗り固めた普通の建物であったが、彼の小屋はほとんど吹きさらしで壁もなく、煮炊き用の竈の上にかっかた黒くなった鍋が男の一人住まいの侘しさを物語っていた。 「ここが俺の家さ」 「・・・・・・」ちょっと驚いて何もいえなかった。家の中を覗くとハンガーにきれいにアイロンのかかったワイシャツがかかっており、それがこの小屋とはあまりにも不似合いであった。 「実はね写真を撮ってもらいたいんだ。前もここに来たカメラマンに写真を撮ってもらったんだ」そういって、僕に写真を見せてくれた。その写真は竈の横にある木の切り株に座ってアコーディオンを構えた姿だった。 僕もちょうど同じようなシツエイションで写真を撮りたいと思っていたことと、初めて彼の写真を僕が撮るのだと思っていただけに、がっくりしてしまった。すっかり撮る気を削がれてしまったが、初めて会ったときから写真を撮りたいと思っていただけに、せっかくの写真を撮るチャンスを逃すわけにはいかなかった。小屋の前にある長いすに座ってアコーディオンを実際に弾いてもらった。 アコーディオンの音色は、独り身でパンタナールの森の脇に住む初老男の寂しさを帯た物悲しいモノであった。その寂しさを打ち消したくて、僕はただひたすらシャッターを押しかなかった。
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