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     ブラジル漂流記 (Draft in Br...  (最終更新日 : 2017/07/20)
マラニョンの旅Ⅷ 大自然の中で [全画像を表示]

マラニョンの旅Ⅷ 大自然の中で (2011/06/27)
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海まで続く砂丘


パラナイーバの町について、ほっとしたのもつかの間、昼飯を食べた後、パラナイーバ川の川くだりをすることになっているとエドアルドはいう。
 以前、パラナイーバには来たことがあり、そのときも川くだりをした覚えがある。そのときのことは大した印象も残っておらず、川下りの後食べたドロ蟹がおいしかったことしか覚えていない。と言うことは面白くなかったということだ。
 ほとんど期待もせず、舟に乗り込む。ボートの操縦士は、小太りのモレーノで、どちらかと言うといやいや行くという感じである。エドアルドが僕を連れて行ってくれと彼に頼んだときも、疑い深そうな目で彼をみながら「旅行社の発行書をもってるのか」と聞き、その紙を見てシブシブ舟を出してくれた。
 舟に乗り込むと、彼は機械的にパラナイーバ川のことを説明し始めた。ごく普通にさらりと案内すればいい、という彼の気持ちがアリアリと見えた。それでは困るのである。普通以上の案内が欲しいのである。どこかで彼の気持ちを掴まなくては・・・・。
「パラナイーバ川はマラニョン州とピアウイ州の州境で・・・・・」そんなことは今やインターネットでいくらでも調べることができる。説明のキリのいいところでドロ蟹の収穫量について聞いてみた。「フォルタレーザに一番出されていて、9割はここの蟹なんだ。あの黄色い舟の屋根まで一杯に蟹を積んでいくのさ」と言ってすぐ前に停まっていた長さ5mほどの舟を指差した。「えっ、あれ一杯に!」驚いたのは本当であるが、ちょっと大げさに驚いてみせた。そんな僕を見て、彼の表情がちょっと緩んだ。そんなに悪い奴ではないかも・・・。ガイドや運転手とうまくやらないと、いい写真は撮れない。別に機嫌を取る気はまったくないがお互い気が許せるようになるにこしたことはない。エドアルドは仕事はきちんとやる男ではあったが、それ以上のことをやってくれる男ではなかった。なんとかきっかけを掴もうとしたが、防御は固く、ついに彼の気持ちを開くことはできなかった。かなりとっつきにくい人間であった。
 舟に乗って川を下っているうちに、次第に彼となじんできた。彼の名前はヒバー。意外にひょうきんな気の良い男である。沿岸にマングローブの林が続くパラナイ-バ川の本流を下り、途中支流に入る。蟹が撮りたくて、頼むと舟を止めてくれた。マングローブの木の間を真っ赤なはさみをした蟹がチョコチョコ逃げる。しかし、大きくても5センチほど蟹しか居ない。「もっと大きな蟹はいないかな~」なんとはなしに言うと、「ちょっと、待ってろ」と言うと、ヒバーは服を脱いでパンツ一枚になって水の引いた泥の上に上がって蟹を探し始めた。まさかパンツ1枚になるとは思いもよらなかった。「えっ、えっ、そんなに無理をしなくても大丈夫だよ」びっくりしていうが、彼はここぞと思う穴に手を突っ込んで、蟹を探る。やっと1匹の15センチほどの蟹を捕まえてくれた。「おーっ凄い凄い。やったね!」賞賛する。彼もなんとなく誇らしげである。
 日本人の客がきたら、今のように蟹を捕ってくれるか? と聞くと、勿論と言う。思わず女性客の前で黒のブリーフ姿の彼を想像して、独り笑ってしまった。
「ここの泥は肌に凄くいいんだ。この辺は工場は無いし、何百年もの間に、マングローブの葉が堆積して泥になったものだからね。昔から蟹捕りたちは肌に良いことを知っていて泥を肌に塗ったりしていたよ。この間来たヨーロパッ人は袋にたくさん持って帰ったよ。ほら全然臭いがないだろ」そういって泥のついた手を僕の鼻に近づけた。「あっ、それはいいよ。絶対! お客を連れてきて泥風呂に入れて・・・、きっと女性客に受けるよ」と話はどんどん大きくなる。エステティックのことはよく解らないが、成分を調べたら、きっと肌に良い成分があるだろう。彼もすっかり乗り気だ。この話がきっかけになりすっかり打ち解けることができた。
「ここから先は、舟では行けないから、降りて歩いていってくれるか。先の砂丘を越えると海があるから」舟を降りると、確かに水は膝までしかない。独りで行くのはちょっと不安ではあるが、30mほど水の中を歩き、砂丘にたどり着く。既に誰かが上陸したのか、数個の足跡が残る。さらに進むと幾十にも低い砂丘が連なるのが解った。海がみたかった。そのまま500mほど進むとやっと海が見えた。
 誰もいなかった。人の臭いがまったく感じられない。波が寄せては引き寄せては引いていく。何千何万年前から繰り返され続ける動き、これからも永遠に繰り返されるだろう。誰もいない海。急に孤独を感じ不安になった。見ると自分の足跡が消えている。ドキッとする。こんな所で迷ったらどうしよう、来た方向はわかっているのに、迷うことはないのに、大自然の中にいる独りっきりの自分を感じ怖くなった。

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砂丘の間に見えるマングローブ林


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