6・15 穏やかなひととき (2007/06/15)
日本に着いてから、列車を使う機会が多い。車中なにもすることがないので、人々を見ているとなかなか面白い。 二人の幼稚園児を連れたうら若い母親が列車に入ってきた。二人の女の子はへろへろに疲れているようで、小さい方はもう泣きそうな顔をしてぐずっている。大きい女の子も、疲れてだらだらした態度をとった。そのとき母親が「しゃきっとしないさい!」としかった。その言い方に僕はっとし、それから僕の関心はこの親子に釘付けになってしまった。 品のある黒い服をきた母親は、清潔感が漂い、母親としての慈愛がにじみ、それでいてほんわりとした色っぽさが感じられた。色白の美人で、その声は、春風のような爽やかではあるが、芯の強さを備えていた。あ~あ、僕もこんな女性と結婚していたら人生も随分と変わっただろうに。そう思うと残念でたまらなかった。僕の隣の席が偶然空き、親子が座った。母親がすぐ僕の隣である。さぞかしいい匂いがするだろう、と思い、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。匂いは、無臭。そんな清々としたところがまた気に入った。残念ながら親子はわずか一駅で降りてしまった。降りた後もずっと、親子の姿をおってしまった。こういう憧れの気持ちがどんどんエスカレートして痴漢になるのかもしれない・・・・。 帰路。常磐線を大分進み、車中の人も大分少なくなていた。プシュという音がうつろうつろした脳裏を刺激した。目をあけると、隣のサラリーマン風の、50前後の男性が、ビールを片手に小さな小袋に入ったスナックをボリボリと食べながら夕刊新聞に目を通していた。ふと見ると前の座席のおじさんも同じようにビールを片手に新聞を読んでいる。その隣のおじさんはポッキーを背広の胸のポケットに入れ、新聞を読みながら手品師のように時折ポッキーを引き抜いては食べている。奥さんのうるさい小言もなければ、会社のわずらわしさもない車中は、サラリ-マンのささやかなひと時の場と化していた。「へ~、いいな」思わずつぶやいた。車窓の外はも薄暗く、町の光が糸を引いていく。男たちの穏やかなひとときに後ろ髪を引かれながら車中を後にした。
|