8・2 危険度 (2007/08/06)
標高約800mのサンパウロからリオにおりてくると、やはり全然暑さが違う。先週は、雨が降り続く、肌寒い天候だったそうだが、今日は、青空が広がる快晴である。リオに最初に来たときは、サンパウロに比べて黒人系の人々が目につきちょっと怖い感じがしたが、今回はそれほど感じない。僕もやっとブラジルになれたのかもしれない。 こっちで手伝いをしてくれることになっている、日系2世のGさんは、もと銀行マンで、リストラにあい、今はフリーの仕事をしている。会うなり、キンキンした神経質そうな声で、一発かましてくるような圧力をかけてくるような人間ではあるが、人柄は悪くはなさそうである。彼は僕と一緒に歩いて、広告を取る仕事をする予定だ。 「リオの治安はどう?」「最近麻薬が売れなくて、ファヴェーラから降り来て、強盗を働く奴も増えてきているよ。だけど、パンアメリカン大会で警察が一杯いるから大丈夫だよ。でも気をつけなきゃね」 まず1軒目のレストラン。「ちょっと車を置くところがないな~。俺の名詞を置いてきてよ。後で行くから。責任者の名前を聞いてきてよ」ちょっとむっとしながら。彼の名刺を受け取る。まあ車を出してくれるだけでもありがたいと思わなければならない。店の支配人にいろいろ取材し、最後にGさんの簡単な説明をし、こういった人間が来るからよろしく、と頼む。支配人はちょっと不思議そうな顔をしている。何故、僕が彼の営業をしなくてはならないのか・・・・。 支配人の名刺をGさんにわたすと、彼はすっかり喜んで、「車を置くところはリオではなかなかないから、これで行こう!」「えっ? まっ、いいけど。手伝ってもらっているから・・・」僕も顔をしかめながら言った。 彼は元銀行マンのプライドがじゃまして、なかなか踏み込めないのだ。その後のお店も、彼は自分から進んでいくことはなかった。途中から彼を一切あてにしないことにした。カタコトのポルトガル語で、なんとか話を聞き取材していくのはさすがに疲れる。 高級ブティック店が軒を並べる、リオのファッションの発信地イパネマ地区は、ショウインドウの飾りつけなども一味違っている。若い綺麗な女性も多い。しかし、今日はそんな風景もおちおち見ている暇も、写真を撮る余裕もなかった。それほど今回の仕事は時間に追われる仕事だった。 Gさんのことを気遣っている余裕はまったくなかった。結局、彼がまともに話した店は1,2軒。この仕事は彼に向いていないのだ。最後に、日本食の店に連れて行ってもらった。ここのオーナーは日本人である。 「コパカバーナは10時以降にそんなカバンを持って歩いていたら、絶対盗まれるから、歩いてはだめだよ!」と忠告された。「まさかそれほど危なくないでしょう」、というと隣にいた、なじみ客のお客さんから「じゃ、歩いてみたらいいよ」と言われ、さすがに少々びびってしまった。 結局、その夜Gさんと別れ、コパカバーナの取材を11時までおこなったが、襲われることもなく無事終えることができた。 後に、某日系旅行社の社長に「コロニアの人は歩いたこともないのに、危ない危ないっていうからね。それほどは危なくないよ。ここでもう30年ちかく仕事をしているけれど一度も襲われたことがないよ」と言われた。 しかし、しかしである。この社長にしても夜実際に歩いたこともなく、車でポイント、ポイントを行き来するだけである。それでは、こんなことはいえないと思う。ましてや、街のことを何も知らない人間は誤って危ない場所に足を踏み込む可能性は大きい。僕は、じっさいコパカバーナを夜12時以降に歩いて、襲われそうになったこともあるし、危ない目に遭いそうにもなった。もし僕が襲われたらその社長は、きっと、「そんな所を、そんな時間に歩くからだよ」というだろう。知らない街での慢心は、危険だと思う。
 | リオのセントロ。スリが多いらしい。 サンパウロの人は、リオが怖いというし、リオの人はサンパウロが怖いという。多分、両方とも危ないことは代わりがないと思う。違いは、勝手がわかっているかないか、その差だけである。 |
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