1・6 青空 (2008/01/07)
日本からブラジルに着たばかりの頃、普通の人だったらまず住まない治安の悪い地区のアパートに住んでいた。このアパートは、働いていた事務所が斡旋してくれた所で、そういう場所とは全然しらなかった。ただ、アパート周辺の人々の人相が悪いのと、娼婦とゲイが多いのでおかしいな、といつも思っていた。一緒に働く日系人の女の子に「えっ、そんな危ない所に住んでるの」と言われて初めて解った。あの頃はまだウブな青年だった。 そのアパートに住み始めて3ヶ月ほどたった日曜日、独りでアパートでぼーっとしているとたまらなく寂しくなった。ふと窓の外を眺めると、青い空が広がっていた。「あ~、この空は日本にも続いているのだな」と思うと、寂しさが、ウソのように消失してしまった。サンパウロの青空を見ると、いつもこのときのことを思い出す。 友人との約束の時間に遅れそうになり、せかせかと9・デ・ジュリオ大通りにかかった橋を歩いていると、真っ青な空が目に飛び込んできた。透明感のあるその青さは、今までサンパウロで見る空で一番きれいな空かもしれない。思わず立ち止まってその青さに見とれてしまった。 地方からサンパウロに帰ってくると、どす黒いスモッグで町全体が覆われているのが目で見てはっきりと解るほどで、それを見るとサンパウロに帰ってきた、と感じる。その汚いスモッグが年始年末の休暇で車がすっかり少なくなったことと、最近夕方にはいつも雨が降るおかげで、大気が浄化されたのだ。 透明感のある青空を立ち止まって見ていると、自分の身体が青空に溶けていってしまうような、怖いような不思議な感覚に襲われた。
 | カメラには35mm(視野があまり広くない)のレンズしかついていなかった。ファインダーを覗いてがっかり。それでも、撮らないよりは撮った方がいい、と思い直し、シャッターを1枚だけ切る。その後、慌てて約束の場所まで向ったが、友人は結局30分遅れてやってきた。青空の青さを表現できる写真をもっと粘って撮りたかった。 |
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