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南米漂流
     今日のブラジル 写真日記 (Photog...  (最終更新日 : 2023/01/16)
2・21 バカブンド [画像を表示]

2・21 バカブンド (2008/02/22)  何故か今夜はナイトクラブに行こうと決めていた。以前は友達たちとよくいったものだが、最近はそうした友達もすっかりいなくなって、2ヶ月に1回い行けばいい方である。それでも、昔、雑誌社で働いていた頃の習慣が残っていて、ときどきサンパウロの夜を覗きたくなる。
 ナイトクラブ、ヴァゴーンにいくと顔馴染みの黒人の門番が、「おー、久しぶりだね」とのんびりとした調子で声をかけてきた。この店は東洋人の客がたくさん来ることで有名で、ある友達は「東洋人の殿堂」なんて呼んでいた。集まる女性も東洋人好みのほっそりとした金髪女性が多い。以前は店に入り、流れるディスコ音楽を聴くと妙にわくわくしたものだが、最近はほとんどそんな気持ちも失せてしまった。ひとつには、店が衰退してしまって、前ほどの惹きつけるエネルギーがなくなったこと、そして僕自身が女性と関わろうとする気持ちがなくなっているためだろう。
 赤い絨毯をしきつめた廊下を通り、サロンに入ると、案の定、客はほとんど東洋人であった。ピスタではディスコミュージックのリズムに合わせて金髪女性たちが、体を軽くゆすっている。
「寂れてしまったなー」思わずつぶやいてしまった。それほど活気がなかった。以前は、思わず見惚れてしまうような、金髪美人が何人もいて、溢れるような熱気が店に充満していた。今はそんな女性はほとんどいないし、客も少ない。
 女性を呼んで話をするつもりも、無駄なお金も出したくなかったのでカウンターに座った。カウンターはチャージ料もなく安上がりなのである。しかし、そんなケチな男は、女たちにはほとんど無視されてしまうが・・・。カウンターで働くバーテンダーは随分前からの顔見知りで、彼と最近の夜の事情やバカ話をするだけでも十分楽しかった。
 カウンターの、足の長い丸椅子に座って、ビールを頼んでいると、後ろから突然押された。振り返ると、マリアだった。
「ここに何しにきてるの?」と言ってわざと怒ったような表情をした。
「いや、君に会いにきたんだよ」「うそつき!」
 彼女とは、お互いに冗談を言い合える仲で、そんなに美人ではないが、飛び切り性格がいい。
「相変わらず、毎日寝てばかりいるんでしょう!」「・・・・・」「バカブンド(怠け者)! ほら、あそこにいるグループは日本の人たちよ。真ん中にいるのが通訳。お金をたくさん稼いでるらしいわ。あなたも通訳でもすれば」「へ~、でもしない」「お金を稼ぐ気がなんでないの! バカブンド!」彼女は緑色の瞳を目一杯開いて僕を叱咤する。
「田舎で服屋を開く話はどうなったの? 早く夜の世界から足を洗わないと」夜の世界で働きながらも、いつも明るい彼女が好きな僕はついつい 余計なことを言ってしまう。
「あー! 去年大学の試験に通って、勉強しているのよ。奨学金ももらえるようになったの」「えっ、おめでとう」僕もすっかりうれしくなってしまった。高い学費を払うために、彼女のように夜働く女性も多いらしい。できれば、なんとかしてあげたいと思うのだが、残念ながら僕にはそんな力はない。「今度、食事でもしようよ。電話してよ」せいぜい僕にできることはそれくらいだった。まあー、電話が来ることはないだろうが、万一電話があったらおいしいものでもおごってやろうと思う。 結局、彼女は金にもならない僕に2時間も付き合ってくれた。ありがとう、マリア。

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帰宅時間のセントロ。
夜の女性たちの仕事は9時から午前4時まで。よっぽど自分を管理しないと、生活は乱れ、最悪麻薬の世界に入り込んでしまう。


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