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南米漂流
     今日のブラジル 写真日記 (Photog...  (最終更新日 : 2023/01/16)
4・11 消えてしまった中華料理屋

4・11 消えてしまった中華料理屋 (2008/04/12)  一時期止まっていたが、また中華料理屋がリベルダーデに増え始めた。そんな中ひそっりと小さな店が閉じられた。
 僕はこの店の日本風の味付けとその安さにひかれて、よく通っていた。特に日本の王将そっくりの味付けの中華飯と、シソの葉と煮込んだ豚の角煮風の定食が好きだった。ただ、店の中は非常に汚く、あるとき友達と食べていると子ねずみがちょろちょろと這っていたほどで、さすがに友達と顔を見合わせた。主人にいうと、事も無げに、箒で叩き潰してしまった。トイレも店の中になく、鍵をもらって一度通りに出て、通りに面したドアの鍵を開けていくような不便な店であった。
 「始めた頃は、ほとんど中華料理屋がなくて、結構お客もきたんだけどね。最近は中華料理屋が一杯できて客もこなくなってしまった。
 子供ができなくて子供をもらったのだけど、あまりうまくいかなかったな。難しいものだね」とぼそぼそと身の上を語ってくれたことを今でも覚えている。この主人は静かな人で、まともに話したのはこのときが最初で最後であった。
 店にはいつも給仕の女性がいた。何故かよく代わり、代わる女性がいつもとびきりの美人とまではいかないがそこそこかわいかったので、料理とともに楽しみのひとつであった。
 あるとき食べに行くと閉まっていた。店の中に主人がいたのでどうしたのか、と聞くと、今は昼はやってないんだという。しかし、夜店先を通っても閉まっているので、多分衛生局に営業禁止でもくらったのかと思っていた。いくら待っても営業される様子がないので、この店のことをほとんど忘れてしまっていた。
 ちょうどそんな時、店が開けられているのを見たので入ろうとすると、もうそこは中華料理屋ではなくて、駄菓子屋になってしまっていた。店にはいかにも胡散臭そうなひげ面の汚い中年男がいた。そのときは、話掛ける気にもならず何も尋ねることも無く立ち去った。

「この下にあった中華料理屋は最近しまっているけどどうなったんですかね」
「主人がもう随分前に死んで、今は勝手に人が入り込んでなんか売っているよ」
「えっ、勝手にですか!」
「ここはブラジルだからな」
 と知人が教えてくれた。
 ああ、あの中華飯が懐かしい。もう二度と食べれないとなると残念でたまらない。そしていつも、意気に灰色の帽子をかぶっていた主人の無愛想ではあるが妙に人懐っこい顔が懐かしい。  


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