4・30 逆恨みⅡ (2008/05/02)
原因はマリアかもしれない。 去年の終わりごろに会った折に、飯でも食べに行こうと、電話番号を渡した。ご丁寧に家の電話番号まで渡してしまって、後で後悔した覚えがある。くったくのない彼女の明るい笑顔が好きだったし、いつも話してていて楽しかった。最後にあったとき、黒人系の夫に暴力を振るわれて、別居したと言っていた。多分マリアの夫だ。でもどうして今頃・・・・・。 朝6時半自宅の電話がなる。ぼーっとした頭で受話器を取る。 「アロー・・・」 「・・・・・・・」無言電話。 頭にきて受話器を投げるように置く。あいつだ! 眠気が怒りでふっとんだ。1分ほどたって、また電話がなる。また無言。 2分ほどして携帯に電話が入る。自分が誰だか言いたいのだろうか? 出る間もなくすぐ切れてしまった。何かあったときのために、この番号はしっかり登録した。最悪、警察に訴えるつもりだ。 ブラジル人は、嫉妬深くて、執念深い奴が多い。拳銃も簡単に手に入るから、酔って気が大きくなって、普通の人間が強盗になった、というような話もしょっちゅうである。それだけに、一応気をつけないと、危ない。 朝の電話でさすがに放って置けなくなり、その夜、マリアが働くナイトクラブに行った。 お立ち台で彼女はビキニ姿で踊っていた。今日の彼女は、顔が暗い。普段はニコニコと笑いすぎて、ちょっと顔が崩れた感じがあるが、全く笑顔のない表情は、逆に彼女を綺麗にみせていた。いつもは目ざとく僕を見つけて手を振ってくれるのだが、気付いているはずなのに、ニコリともしない。何かあったのだろう。やはりあの電話の男は、彼女の夫だ。そう確信した。 踊り終えた彼女を捕まえて、「変な男から電話があったよ」といいながら携帯にかかった番号を見せた。 番号を見た彼女は「ええ、彼の番号よ。絶対出たらだめよ!」といいながら深いため息をついた。こんな暗い表情の彼女を見たのは初めてである。 家族の問題が山積みの上に別れた夫の問題まで起こっているようで、それ以上は何も話さず、僕から離れていった。もう、何も考えたくないのだろう。 僕もそれ以上、無理に彼女を深追いしなかった。 「大学に入って勉強しているのよ!」と嬉しそうに話していた頃の明るい彼女の笑顔が懐かしい。彼女は彼女なりに、なんとかもがきながら頑張っているのに、周囲の人間が足を引っ張るのだ。僕に今できることは、頑張れよ!、と心の中で応援してあげることだけであった。
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