5・5 別れ (2008/05/07)
暗くなったアウグスタ通りを2匹の犬を引いて、引き取り手の待つ事務所を目指して歩く。初めての夜の道だけに彼らは不安そうな顔をしてときおり僕の方を見る。 歩くうちに悲しくなってきた。 ゴメンネ、ゴメンネ、彼らを手元におけなかった自分の責任の無さと後悔と情けなさに身を焦がしながら、歩く、歩く、店の鮮やかなネオンが流れ過ぎていく。なんでこんなことになったのか。そんなことを考えてももはやしょうがないのに、ついつい考えてしまう。 午前中に「1匹犬をもらってくれる人が見つかったわ」と彼女から電話。 本当は2匹一緒にもらってくれる人を希望していたので、どうしようか迷っていた。友人が1匹欲しいと言っていたので、これで解決できる。でもこの友人はあまりあてにできないのであまりあげたくなかった。もし、断れば、もう他の話は来ないかもしれない。 2匹の兄弟犬は非常に仲がよく1匹を叱っていると、もう1匹が近くにきてあたかもイジメルナ、というように哀しげに吼えるほどであった。そんなことを思い出していると引き離すのは忍びなかった。でも仕方ない。 いろんな人に電話をかけていていたので、とりあえずなんとかなりそうだ、という連絡をいれようと、一番見つけていただけそうな可能性のあった方に電話をした。 「そうですか。できれば2匹一緒にもらってくれる人を探していたんですよ。 残念ですね・・・・・・、まだ時間があるならもう少し探して見ますよ」 「でもあまり時間がないので」と一度は断ったのだが、確かに2匹一緒の方が彼らのためにはいい。別々だと、あまりに気が弱く、怖がりのサスケはきっと性格がひねくれた犬になるだろう、などなど、考えているうちに何とか2匹一緒に引き取ってもらえる人を探そうという気になってきた。彼女に欲しいと言っていた人に1,2日待ってもらうように連絡してもらい、慌ててまた知人に電話して探して頂く。 2時間後、その方から2匹一緒にもらってくれる人が見つかったという電話を頂いた。きっと仕事をソチノケで探してくれたのだと思う。なんとお礼を言ったら良いのか・・・・。隣人には、僕は犬を虐待する最低の人間として村八分状態になっているだけに、その方の親切は嬉しかった。いくらそんなことをしてないと言ってもわからない、くだらないブラジル人にどう思われようと屁でもない。しかし、出来る限りの愛情を犬たちに注いでいたので腹がたった。
1時間後、貰い手の事務所の下で2匹を見せる。気の弱いサスケは吼える。カンクロウも震えている。これで大丈夫なのだろうか。心配になってきた。彼が持ってきたダンボールに2匹を入れると魔法にかけられた様に急に静かになった。自分たちがどこかに連れていかれることを受け入れたのかもしれない。どうしようもない、自分自身が情けなくなった。車に入れられ、扉が閉じられた。彼らは一鳴きもしない。ただただ震えている。もう、それ以上見ていられなかった。さようなら、もう一生会うことはないだろうが、立派に大きくなれよ。いつもじゃれてくるキラキラしたカンクロウの目が、甘えてくるサスケの顔が、帰りのバスの窓ガラスに浮かんでは消えた。
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