6・4 誉め言葉 (2009/06/05)
「嫌な奴が乗り込んできた」、エレベーターが20階に止まり、相撲取りのような突き出た腹が入ってきたとき、そう思った。このオジサンがエレベーターを待っているときは、使わない。僕にとってムシズが走るような存在なのである。多分、僕がこれほど嫌っているのだから、もちろん彼も僕のことは当然良く思っていないだろう。僕は話したくもないのだが、最近ちょこちょこと話す機会が出てきていた。 今日は彼は気分が良いのか、「今日は暑いだろう」と言ってきた。ここ2,3日、アルゼンチンからの寒波の訪れで冷え込んでいるから、おふざけである。 「セニョールは寒くないのか?」と僕は言葉を返すと、彼はニッと笑った。 多分、僕が「ヴォセ(あなた)」と言う言葉を使わずセニョールという尊敬語にあたる言葉を使ったのが嬉しかったのだろう。教育程度が高い人や礼儀をわきまえている人は、相手が子供じゃない限りはきちんとセニョールという言葉を使うので、僕もできるだけセニョールという言葉を使うようにしていた。 エレーベーターが4階に再び止まり、白い秋田犬をつれた男が入ってきた。 「アキタ?」と僕が聞くと「そうだ」という。オジサンとこの男は知っている仲らしくいろいろ話始めた。 「きれいな犬だね~。日本のモノはいいよ。すべてきれいだよ」オジサンは本心はそんなことは思っていないだろうが、僕にまるでゴマをするように日本を持ち上げる。しらじらしい気持ちで聞いていたが、決して悪い気持ちではない。嫌いな人間にわざとらしく誉められても、決して悪い気分はしないのだから、そうでない人に言われたらもっと嬉しいだろう。人との関係をうまくやっていくには、誉めることは大切なのだな、とつくづく思った。
 | ブラジル人は寒いのが苦手。その一方で、わざわざ寒さを味わいに南の寒い地方に観光に行く人もいる |
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