11・3 物乞い (2009/12/04)
サンターナのメトロの駅で友人を待っていると、路上生活者と思われる日系人らしいおじいさんと目が一瞬あった。以前はときおりリベルダーデでも数人の日系人路上生活者を見かけたが、最近いなくなっていた。 さっと視線をはずしたが、そのおじさんは、足をひこずるようにしてゆっくりと僕に近寄ってきた。それでも僕は無視していたが、白黒まだらのひげで覆われた口をゆっくり開いて 「すみませんがね。日本語はなしますか?」 「すこしね」と僕 「お腹がすいていてね、何か食べたいんだけど1レアルか、3レアルくれますか」 一瞬、以前の苦い思いが浮かんだ。もう数年前になるだろうか。やはり同じようにメトロで日系人に呼びかけられ、「飯代がないのでお金をくれ」と言われたことがあった。同じ日本人の血が流れた人だからと思い、そのとき持っていたなけなしのお金3レアルをあげたところ、「これではハンバーガーも食べれないから、もっとくれ」という。そのとき僕は自分の昼飯代5レアルしかなく、残った2レアルで何か食べようと思っていた。自分の飯代を減らしてまでお金を渡したのに、それには満足しない彼の厚かましさに腹が立って、「じゃあ、返してくれ」と言ったところ、その男はあわてて手にしていたお金を引っ込めて人ごみの中に消えてしまった。「なんという奴だ!」そのとき憤慨した記憶が頭の奥底に残っていたのだ。 ズボンのポケットにあるコインを全部取り出してそのおじさんに渡した。彼は手のひらにある5枚の硬貨をゆっくりと1枚1枚数えると、「ありがとう」と言っていってしまった。たぶんその時の僕は過去の嫌なことを思い出し、彼を見下すような傲慢な態度を取ったような気がする。 お金を人にあげるのはつくづく難しいと思う。あげても、あげなくてもどちらにしろ後悔することが多いからだ。こういう人間を見たら、さっと逃げるのが一番かもしれない。
|