6・3 籠とポンカン (2010/06/04)
インディオ部落で無理やり買わされた籠と頂いた大きなポンカンが3つ。ひとつのポンカンはすでにジュクジュクと腐り始めている。旅行から帰ってきて早4日が過ぎたのだ。バタバタといろんな用事が入り、普段はゆったりすぎていく1日も、あっという間に通り過ぎてしまった。ポンカンの腐りが時間の経過を教えてくれる。ああ、あれから4日もたつのだ。 不出来な籠を見ていると、日に焼けた不機嫌そうなインディオのおばさんの顔が浮かんだ。 「籠でいいから買ってくれない。お金がなくて大変なのよ」 籠か・・・。籠はどう考えても僕の汚い家では使いようがなかった。せいぜいゴキブリの住みかになるくらいだった。 「木製の人形はないの?」 「ないわね。あるのは籠と弓矢くらいよ」そう言って色鮮やかな羽がついた飾り用の小さな弓矢をみせてくれた。それはもっと僕には無用のものだった。 「なぜ、いらなくなった服を持ってきてくれなかったの?」 そう言われても、インディオ部落を訪ねるとは思ってもいなかったし、彼らが服を欲しがっているとは考えもしなかった。 誘われるままに入ったヤシの葉っぱで拭いた小屋の中には、小さな半分壊れかけのベッドがひとつ数個の鍋があるくらいだった。それにしても生活の臭いのしない小屋である。単に寝るだけ、あるいはモノ置きに使っているのかもしれない。普通汚くても、それなりに生活している感じがあるものであるが、この小屋は乾いた感じがして人が住んでいる臭いは感じられなかった。 ここのインディオは、町のすぐ横に住んでいる人たちで、貧しい生活ではあるが、ほぼ町に住む通常の人たちの生活と変わりない。町に籠や弓矢などの手芸品を持って行って売って生計をたてているらしい。 「昔わね、白人と血が混じることは許されなかったけど、今は混じっているわね。昔のようなことを言っていたら、若い者は皆夜逃げしていなくなっちゃうわ」そう言って純潔の血をひくというおばちゃんは笑う。 「助けると思って買ってくれない?」 この小屋に入れてもらい、おばちゃんの顔を見ていると買わないと申し訳ないような気になってきた。 「いくら?」 「小さいのが15レアル、大きいのが20よ」 結構良い値段である。決して安いとは言えない。小さいのは貧弱でできもわるくとても買う気にならない。大きいのも決してデキがいいとはいえないが、それでもまだマシである。この旅で結構お金を使っているだけに、少々きついが、わずか20レアルで喜んでくれるのなら、それも仕方がない。普通ならたいてい、まけてもらうのだが、言い値で買う。モノを買うのが目的ではないのだから、でもお金をあげるのは、嫌だし、ありがとうと言ってお金を渡した。買った籠は誰かにお土産であげるつもりでいた。 仕事をしてクタクタになって帰ってくると、僕の散らかった部屋の中で、籠に3つのポンカンが入って黄色い光線を放っていた。お金を払ったときに見せた、おばさんの嬉しそうな表情を思い出した。
 | インディオから買った籠とお土産でもらったポンカン。 |
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