7・26 タイミング (2010/07/27)
同じ棟に住む、僕の嫌いなおじいさんとエレベーターに乗り合わせた。いつもは、できるだけ避けて、同じエレベーターに乗り合わせそうな時は、他のエレベーターを使うようにしていた。ところが何故か、今日は一緒になってしまった。久しぶりに見るアラブ系の、いかにも意地悪そうなおじいさんは、以前と比べ憔悴した元気のない顔をしていた。 理由はないのだが、彼の顔を見ているとなんとなく話しかけてみる気になった。どうしてそういう気になったのか自分でも解らない。 「最近、奥さんをみないけどお元気ですか?」 彼には、彼以上に意地悪そうな顔をした奥さんがいた。うちの彼女に言わせると、顔どうよう嫌な感じの女性だったらしい。しかし、僕には愛想がよかった。 彼の顔が曇り、一瞬目がうるんだ。 「家内は死んだんだよ。今日がちょうど1周忌さ」 「・・・・、ごめんなさい。知らずに聞いてしまって」 僕の感じでは、ついこの間彼女に会ったような感じがしていて、しばらく見えないな、くらいにしか思っていなかったのだ。死んだなんて思いもよらなかった。 「俺一人になってしまった。もうどうしようもないな」 体中から寂しさが噴出し、ヘナヘナと萎んで行きそうであった 何を言ったらいいか解らず返答に困った。 あまりにもタイミングが良すぎる。僕はこういうことが本当に多い。人が困っている時や、悲しんでいるときに、メールや電話をタイミングよく出すことが多いのだ。もちろん、喜んでいるときもあるが、印象に残って覚えているのは、どちらかといえば、反対のときである。 今日も、奥さんの1周忌、その日にこのおじいさんに声をかけるなんて、あまりにもタイミングが遭いすぎる。あの、いかにも憎々しげだったおじいさんが、しぼんだようになってしまったのを見るのは僕も悲しかった。なんと慰めの声をかけていいのやら、解らなかった。 「じゃあ、またね、気を落とさないでね」エレベーターを下りて行く彼の寂しげな背に言うのがやっとであった。 もし次、遭うことがあったら、もっと優しく声をかけてあげよう。なんとか寂しさを紛らわしてあげたい、と思った。あの頃の脂ぎった、憎々しげなおじいさんに戻ってもらいたい。
 | 家族のありがたみを知る機会が少しずつ増えてきた。でも、もう遅い?! |
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