3・7 ルアのミュージシャン (2012/03/08)
この頃は日の暮れるのがすっかり早くなり、7時を過ぎると薄暗い。街頭がぼんやりと照らすレプブリカ広場前の通りは家路を急ぐ会社帰りの人々があふれている。そんな雑踏の中を歩いていると、一人の男がギターを弾いている後姿が見えた。一瞬、写真を撮らしてもらおうかと思ったが、写真を撮るのにはあまりにも暗すぎた。 彼の横を通り過ぎるときに、どこかで聞いたことのあるしわがれ声が耳に飛び込んできた。おもわず振り返ってみると、2回写真を撮らせてもらった男であった。いつも、女性といっしょに歌っていたのでてっきり知らない男かと思っていた。 「僕のこと覚えている?」「勿論だよ」「いつも一緒にいるおばさんはどうしたの?」「ちょっと病気になっちゃてね」 せっかくだから写真を撮らせてもらうことにした。カールの入った白髪まじりの髪、ぎょろっとした迫力のある目、妙にコミカルな動き、結構絵になる人なのだが、今日のこの暗さではうまく撮れない可能性が高い。 あまりISOはあげたくないのだが、ぶれぶれの写真になるよりはましだ。2000まであげて、少しシャッタースピードをあげる。このおじさんは歌うときに結構身体をゆするので、このシャッタースピードではぶれてしまうだろう。やはり明るいレンズを持ってくるべきだった。そんなことを考えながら、運よくきれいに撮れることを願いながら何枚かシャッターを切る。 東北ブラジルのセルジッペからきたという、彼のセルジッペの歌にはどこか悲哀があり惹かれるものがあった。決してうまくないのだが、家に帰ってもずっと彼のしわがれ声の歌が耳に残っていた。セルジッペの町は、東北ブラジルの小さな州の州都だったはずである。サルバドールやマセイオなどの大きな観光の町に隠れて非常に地味な町で影が薄い。たいていの大きな町に行っている僕も一度も行ったことがなかった。いつか行ってみたいな、セルジッペの町に思いをはせた。
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