4・9 消えた路上の男 (2012/04/10)
僕の住むアパートの軒下でいつも寝ていた路上生活者がいなくなった。100キロはありそうなほどの体格で、いつも尻を半分ほど出して寝ていた。犬を散歩にでかけるとき、彼の全財産が入っているスーパーの大きな押し車が道をふさいでいて、邪魔だな、といつも思っていたが、こうしていなくなるとなんとなく寂しい。 普通、路上生活者達は、身を守るために数人で固まって寝たり、犬と一緒にすごす人が多い。しかし彼はいつも一人ですごしていた。お金をせがむでもなく、食べ物をせがむでもなく、日がな、巨大な身体をトドのように道路に横たえて、道いく人をただただ眺めていた。一度彼が他の路上生活者と話している時に出くわしたことがある。しゃがれた声と話し方はどこか、ひょうきんな感じがあった。もともと明るい性格なのだろう。 ここ数日、木陰ですごしている姿さえ見えなくなってしまった。うちのアパートの周辺だと、大人しく、どこかひょうきんな彼を可愛そうに思った人々が食べ物やお金を与えていただろうから、なんとか生きていけたのだろう。この辺から離れると、生きていくのは大変だろう。 一度として彼が物貰いをしているところを見たことが無い。そんな彼にお金を渡すのが失礼な気がして、僕は一度もお金をあげたことはなかった。そんな彼が、これまで、あの巨体をどうやって維持してきたのだろうか。謎である。 セントロのどこかで、元気に過ごしていればいいのだが。
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