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南米漂流
     今日のブラジル 写真日記 (Photog...  (最終更新日 : 2023/01/16)
4・23 おじいちゃん [画像を表示]

4・23 おじいちゃん (2012/04/23) 散歩の行程の半分を終え、メトロ・リベルダーデ駅近くにさしかかったところで、いつも駅の出入り口の石段にちょこんと座っている日系のおじいちゃんのことがなぜか気にかかった。今日もいるかな?、そんなことは一度も思ったことがないのに自分でも不思議であった。
 そのおじいちゃんは、僕がこの地点を通り過ぎる6時~6時20分の間には、どんなに寒い日もいた。何をするでもない、ただただ座っているだけなので、初めは路上生活者かと思った。散歩をするたびに何気なしに見ていると、いつもこぎれいな服をきていたのである程度きちんとした生活送っている老人だということが解った。時折、ブラジル人のおばあちゃんが隣に座っていることもあった。二人の雰囲気から、夫婦という感じはなく、友達か、彼女、そんな感じであった。毎朝ちらりと見るくらいだから当然といえば当然かもしれないが、一度もおじいちゃんの笑顔を見たことが無かった。ちょっと曲がった背中からは孤独がにじみ出ていた。一人住まいの老人が寂しさを紛らわすために、毎朝来ているものだと僕は勝手に思い込んでいた。僕も年をとったら、こんな感じになるのかな~、とおじいちゃんの前を通り過ぎるたびにぼんやり思った。
 今日はいつもの場所におじいちゃんがいなかった。その代わりに、小さな人の輪ができ、その中心で紺の上着を着た男が、膝をついて体を上下させていた。何をしているのだろう、そう思いながら近づいていくと、おじいちゃんの、蝋人形のように白くなった顔が目に飛び込んできた。
 乱れた白髪頭と口を半開きにしたおじいちゃんの顔には、苦しさも喜びも何の表情もなかった。光を失った目が、ただただ明け切らない曇った空をみつづけていた。おじいちゃんを囲んで身動き一つせずにじっと見つめる人々中で、救急隊員がおじいちゃんの心臓の上に手の平を置き、一定のリズムで動いていた。まるで夢を見ているようで現実感がなかった。おじいいちゃんが着ている、真新しいジャージの青さと血の気の失せた白い顔が網膜に焼きついた。
 おじいちゃんの魂が上空で眺めているような気がしてふと空を見上げると生命力溢れる朝の太陽が輝いていた。あ~、今日もまた1日が始まる。

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