5・31 ファヴェーラⅡ (2012/06/01)
いつも一緒にファベーラに行ってくれるヨランダさんと、4年前から通っているファベーラに行く。 ファベーラの入り口でジョバンナが家の前を掃いていた。「調子どう?」「うん、あんまりよくないけど・・」といいながら、いつもの人なつっこい笑顔を見せてくれた。典型的な、ノルデスチ(東北伯)出身の小柄な茶褐色の肌をした女性である。ファベーラに住んでいる人は、東北伯などから出稼ぎにサンパウロにやってきた人たちが多い。46歳の彼女には11人の子供がいて、小さな小屋は2つの2段ベッドが家の中の大半を占めている。彼女は家の半分を改造して、ファベーラの人たちを相手に旦那とアルコール販売を中心としたバール(軽食屋)をやっていた。今日はその店も開いていない。どうしたのだろう? 「締めだよ! マリド(夫)が自分で飲んじゃうし、友達にタダで飲ませるもんだから、全然儲けがでないんだよ。だから、締めたんだよ」と言って顔をしかめた。子供がたくさんいて、かなり生活は大変なはずであるが、彼女はそんな苦しさを一切感じさせないほど明るくさっぱりしている。そんな彼女が僕は好きだったし、彼女も僕たちを見るといつも近くにやってきて、いろんなことを話してくれる。 ファベーラ内の1m半ほどの狭い道に入ると、知らない男たちがいて、じろりとこちらを見る。ほとんどのファベーラは麻薬組織の温床となっておりボスが取り仕切っている。見知らぬ人が入ると極端に警戒されるし、ヘタをすると、身の危険もある。 2ヶ月来ないだけで、見知らぬ人が増えていた。それだけ人の入れ替わりが激しいのだろう。前方から、見覚えのある女の子がやってきたので、ほっとした。ヨランダさんが「こんにちわ、お母さんは?」とその子に声をかけると、男の刺すような鋭い視線がふっと消えた。大丈夫だと判断してくれたようだ。 初めて来た頃は、ベニヤ板を貼り付けたような小屋ばかりだったのに、今はほとんどが、コンクリートブロックの壁に変わった。それだけここの人たちの生活も向上しているということだろう。しかし、生活が向上したということは、それだけお金がいったということだし、維持するだけでもお金がかかる。以前は、ガット(盗電)が見逃されていたこのファベーラにも最近は支払いが義務づけられた。 小屋の中を覗くと、テレビが入り、冷蔵庫が入り、ステレオが入り・・・、どんどん生活はよくなっている。ここのほとんどの人も携帯電話を持っているだろう。これらの便利な機器を使うには、電気が必要だし、携帯を掛けるためにはお金が必要である。毎月の生活を維持するためには、結構なお金が必要だろう。もちろん、まじめに働きたいと思っている人がほとんどだと思うが、なかなか良い仕事が見つからないのが現実であろう。 これだけいろんなモノを持つようになり生活費が向上してしまえば、昔のようにお金がなくてもなんとかなるという訳にはいかない。当然、不景気の影響は受けるようになる。それも一番最初にその影響を受ける。そうしているうちに犯罪に手を染めていく人がでてくる。 全体に、なんとなく暗く冷たい雰囲気を感じたのは、見知らぬ人が増ていることもあるが、じんわりとヨーロッパの経済リスクの影響をうけているような気がする。
|