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南米漂流
     今日のブラジル 写真日記 (Photog...  (最終更新日 : 2020/07/01)
10・15大道芸人の悲哀 [全画像を表示]

10・15大道芸人の悲哀 (2013/10/15) 「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 今からやるよ! 
 小さな子供が5人もいるんだ。募金頼むよ~」
 声の方を見ると人だかりができている。ちょうど人が気に隙間があったので覗いてみると、自転車の車輪のわっかにナイフを刺したモノを前に、銀色に体を塗りたくった男がいた。彼の娘らしき12,13歳ほどの女の子が、格闘技のラウンドガールのように募金箱を持って人の間を回っている。
 ちょうど僕が入り込んだ所は、前に人が一人いるものの、わっかの正面で、写真を撮るのに最適の場所であった。写真を撮っていると、この銀色塗りたくり男と目があった。
「お~、ジャポネス。遠慮しないで一番前にきて撮れ、撮れ!」そう言って僕を一番よい場所に呼び寄せてくれた。
 こうなると、募金しないわけにはいかない。2レアル札を募金箱にいれる。しかし、それからが長かった。男はもったいぶってなかなかはじめようとしない。わっかの前に行って、輪の大きさがちょうど頭が入る隙間しかないのを何度も見せたり、鼻にナイフを突っ込んだり、トイレットペーパーを鼻に突っ込み片端を口からだし、口と鼻から交互にひっぱたり・・・。人を笑わせながら、あまりにもらくらくとやってのけるので、たいしたことの無いように見えるが、鼻に食事で使うナイフをほぼ根元まで突っ込むようなマネは到底普通の人はできないし、トイレットペーパーを鼻から入れて口からだし、端を持って引いたりすることは、とてもできない。彼の鼻は途中で穴が開いていて口とつながっている特殊な身体なのかもしれない。
 三脚につけられた輪っかは、頭より一回り大きなだけで、周り中にナイフがつきさしているから、ひとつ誤ればナイフが身体を引き裂いてしまうだろう。ほんとうにこんな小さな輪っかに飛び込んでくぐれるのか? もしできれば確かに凄い! 男は輪抜けをする時間を伸ばしに伸ばし、募金を募る。焦れた人々からは、「早くやれ!」とヤジが飛び、中には、「お金だけとってやらないよ」と言ってその場を離れる人もでてくるほどである。
 もう、飛ぶか、と思うと男は止める。よっぽど集中してやらないと、ヘタをすれば大けがを負ってしまうし、怖いのも分かる。しかし、もうやるかと身構えては止める。そんなことが5回も続いた時に、後ろの男が「5レアル出すから早くやれ」とヤジがかかる。わっかを支えている、募金をしていた娘まで「早くやりなよ!」と文句を言っている
 男はやせた貧相な小男のせいか、飛ぶのを怖がっているように見える。これは演技なのだろうか? スカすこと6回目、一瞬、男の目が座り、ギラリと光ったかと思うと男は4からカウントダウンをはじめた。しかし、カウントダウンもこれで3回目で、誰もがまたスカされると思っていた。しかし、今度は、目に鈍い光を湛え、真剣な顔だった。ゼロというなり男は輪に飛び込んで行った。無事、輪をくぐりぬけた。
 パチパチと数人の拍手があがったが、あまりにも一瞬で、さんざんスカされ、待たされた僕はなんとなく、な~んだ、という気持ちになった。実はすごい技でなかなか普通の人間にはできないということは解っているのだけれど、あまりにも一瞬で、簡単に抜けて終わってしまったので拍子が抜けてしまった。テレビだったら、何度もスローモーションの画像が何度も流し、すごいね、ということになっただろう。しかし、ここは路上の生、そんなものは見ることはできるわけがない。もし、ここで一筋の血でも流れていればまた違っていただろうに・・・。見ていた人々も僕と同じようで、ちょっとがっかりしたような顔をして、一人抜け二人抜け、ばらばらと糸がほぐれるように人の輪はなくなってしまった。
 もしかして、僕も見ていた人々も心の奥底では、彼が失敗することを期待していたのかもしれない。ピエロのようなどこかひょうきんで、悲哀のあるこの男には、輪抜けを成功させる姿ではなく、失敗して傷を負い痛がっている姿、皆で笑われている姿を期待していたのかもしれない。
 沼の底に沈んでいた鰐がゆっくり浮かんできて、水面に目だけだしているように、自分の中の残忍さがひょっこり顔を出しているのに気が付き、自分自身でも驚いた。

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鼻から口にちり紙を通す。これだけでもすごい


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頭しか入らないようなスペースをくぐりぬけれるのか?


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飛び込む寸前。さすがに顔が引きつっている


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飛び込んでほぼ通り抜けている状態。たいした技だが、成功に対する拍手はわずか。


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