10・26 街角のミュージシャン (2014/10/26)
街角のミュージシャンを撮らせてもらうことは、今、僕の撮影テーマのヒトツである。それも頼むのは、若い兄ちゃんたちのギター弾きやバイオリンはなく、年を取ったいかにも気難しそうなおじさんミュージシャンが多い。 これが意外に難しい。なにしろ、僕自身がひとみしりするタイプの人間だから、自分自身の体調がよく、気分が良いときじゃないと、なかなか撮影許可のお願いを言い出せない。調子が悪いときには、どうしようか、こうしようかウンウン悩んだあげくやっと、勇気を奮い起こして言う始末である。驚くほどあっさり「いいよ」と言ってくれる人もいるかと思えば「ダメだ」という人もいる。もちろん、断れるのは仕方のないことであるが断れると結構傷つく・・・。そんなら、最初からたのまけなければいいのに、と自分でも思うが、惹かれるミュージシャンを見るとどうしても写真が撮りたくなってしまうから仕方がない。 今日も御茶ノ水橋を歩いていると、ボロボロのギターをおじいちゃんがぽろんぽろんと爪弾いているのが目に付いた。ぱっと見、頑固そうなおじいちゃんだったので声をかけようか、どうしようか、と数秒悩んでやっと声をかけた。 「写真を撮らしてもらっていいですか」と聞いた。 「いいよ」 数枚の小銭しか入っていないボール箱に2レアル札を入れた。おじいちゃんはニコリと笑って歌い始めた。歌い始めると顔はがらりと変わり、陽気な表情になった。歌い方も独特な、馬が跳ねる様な、軽快な歌い方だ。 歌い終わって 「おっちゃん、うまいね~」と言うと喜んで目じりが皺だらけになった。 僕が日本人だということがよかったようだ。 「昔、マットグロッソの農場で働いていたんだけど、オーナーが日本人だったよ。ほんとによくしてくれたな~。モノを買うときに保証人になってくれたりね。けどね、俺、酒に溺れてしまちゃって仕事もやめたし、家族も出て行ってしまったよ。今は酒もやめてサンパウロにきたんだ」というような話を、堰が切れたように話をし始めた。おそらく誰かと話をしたかったのだろう。 「サイトに写真のっけてもいい?」 「いいよ、いいよ。なんならサインするよ!」 僕自身もすっかり気分がよくなってまた来ることを約束してその場を去った。
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