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     今日のブラジル 写真日記 (Photog...  (最終更新日 : 2023/01/16)
5・6アコーディオン弾きの人生 [画像を表示]

5・6アコーディオン弾きの人生 (2015/05/06)  ガルブン・ブエノ通りの片隅でいつもアオーディオンを弾いているレナウドおじさんの姿をこの頃、見かけない。1日30レアル(約1400円)のホテル代を毎日やっと払いながらのその日暮らしの生活だと聞いていただけに心配だった。 
 レナウドおじさんと初めて出会ったのは夕のセントロの雑踏だった。人が足早に通り過ぎて行く道路で、アコーディオンを弾きながらただただ歌っていた。憂いのある顔とブラジルの大地と青い空を想起させる、伸びのあるなんとものんびりした歌声に惹かれた。その時は、写真を撮りたいな、と思っただけで、声もかけずに通り過ぎた。その後、偶然リベルダーデで演奏しているレナウドおじさんに出くわした。写真を撮っても良いか、と尋ねると、「いくらでも好きなだけ撮っていいよ」とあっさり了解してくれた。それ以来の付き合いだから、かれこれ1年以上経つ。アコーディオンを弾いている姿を見かける度に写真を撮らせてもらい、二言三言会話を交わす仲になった。いつも「オー、アミーゴ、元気かい」とちょっと大げさに僕を迎えてくれた。僕の好きな曲を弾いてもらいそのお礼にわずかだが、お金を募金箱に入れた。去年の末に紙焼きの写真を渡すと、ちょうどCDを作るのに写真が必要だったらしく、大変喜んでくれた。
 番組によるとレナウドおじさんは、アコーディオンを弾きながら歌う独特の音楽、バイアォンで有名なルイス・ゴンザーガとも共演したことがある音楽家で、一時期はCDを出すなど結構売れっ子だったらしい。ところが、ブラジルによく話であるが、アルコールに溺れ、麻薬にのめりこみ、財産を失してしまった。妻子は愛想を着し出ていってしまい、仕事も失った。その後はまさに坂を転がるように落ちて行き、唯一の財産であるアコーディオン以外なにもない路上の人となってしまった。それでも音楽を捨て去ることはできず、酒も麻薬も止め、アコーディオンを路上で弾いて、なんとか生きながらえて今にいたった。
1度、昔に録音したCDを見せてくれたことがある。その表紙に映った写真は今のレナウドおじさんとは似ても似つかない長髪で目つきの鋭い、なかなかの色男であった。現在の彼の顔に刻み込まれた皺と痩せ細った身体が、その後の苦労を物語っていた。息子が一人いると教えてくれたことがあった。「なぜ息子と一緒にすまないのか?」と喉まででかかったが、あまり話したくなさそうだったので止めたことがある。
番組でレナウドおじさんは、かつての共演者たちと会い共演した。「もうこんなにうれしいことはない!」そう言った彼の目には涙が光っていた。彼の指は、路上の演奏では僕が一度も見たことがない程、クモの足のようにスリリングにそして激しく鍵盤の上を動き回り、ノビノビとした声がホールに響き渡った。彼の頭の中には過去の絶頂時代が蘇っているようだった。
ガムテープで補強された唯一の財産であるボロボロのアコーディオンを見た司会者が、白い新しいアコーディオンをプレゼントした。もうレナウドおじさんの皺だらけの顔はくしゃくしゃだった。そして大声で、「これ以上嬉しいことはないよ! ありがとう神様」と繰り返した。
番組で見て以来、レナウドおじさんの姿をリベルダーデで見かけることはなかった。一人息子と一緒に住みながらCDの録音をしているのかもしれないし、テレビの出演でいろんなところからお呼びがかかっているのかもしれない。もう会えないと思うと、ちょっと寂しいがレナウドおじさんが新たな人生を歩み始めたことを祝いたい。

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