12・2 破壊される教育の場 (2015/12/02)
夕方、上空を数機のヘリコプターがバタバタとひどく耳障りな音を立てて飛んでいた。デモがどこかで行われているのか? そういう話は聞いていなかったのでさほど気にかけなかった。朝から動き回って少々疲れていたこともある。 アパートに帰って夕飯の用意をしていると、ボンボンという轟音がビルディングの並び立つ通に鳴り響いた。やっぱり何かあったのか? 外はもうすっかり暗くなっている。 テレビをつけても何もニュースは流れていない。窓から下を見ると、数十人の人間が9・デ・ジュリオ大通りを走っている。後ろから機動隊らしき影が隊列を組んで威圧するかのように歩いてきている。 写真を撮りにいこうかと思ったがあまりに暗く、ほぼデモは終わりかけていたので思いとどまった。最近のデモはビデオ係の警官が様子をすべて撮っていて何かがあると、あとあと割り出しに使われる。無実にもかかわらず犯人に仕立てられ逮捕された人間も知っているので、後ろ盾のないフリーカメラマンにはできるだけ目をつけられたくない。 TVのチャンネルを探し回り、やっとニュースを探しだし見ていると、ちょうどデモの様子が流れていた。州政府が公立学校を閉鎖することを突然告知し、それに抗議する中・高学生たちのデモだったのだ。学生たちは皆未成年なので警官たちも、一般市民や大学生たちに対するように暴力的に扱うことはできない。それでもガス弾は何発も発砲されていたし、警棒で子供達をバシバシ叩く警官の様子がながされた。 サンパウロの中流以上の家庭の子供はたいてい私立の学校に行き、中流以下の私立にいかす余裕のない家庭の子供達は公立の学校に通うのが普通である。どうしても公立の学校の子供達は私立の学校の子供たちに比べ学力が劣る。だからお入学の難しい州立大学や公立大学に入るのはお金持ちの子供達ばかりだ。お金のかからない大学に余裕のある家庭の子供たちが入学して、余裕のない家庭の子供がお金のかかる私立大学にいかなければならないなんて皮肉なものだ。去年あたりから、金のない政府は奨学金さえもどんどん切っているから、普通の家庭の子供達は私立の大学にさえいけなくなっている。国公立の大学といえども、州政府が職員に給料を遅延することから、しばしばで職員のストライキが各地で起こっている。全国の大学で授業がまともに行われていないような状況である。この国の教育はどんどん最悪状態の一途をたどっている。教育がダメになると、国民のレベルは落ち、国力も落ちて行く。 息子は奨学金をもらいながらランク的には中の下の私立の中高を卒業できた。しかし国公立大学へ入学は、学力の差がお金持ち私立学校の学生に比してあまりにもありすぎて四苦八苦している。とは言っても公立高校の学生の中にも国公立大学に入学している学生はいるわけであるから、本人の努力が足りないのだ。 現在、サンパウロ市内で93校近い学校で閉鎖が予定され、学生たちが占拠している。州政府の言い分としては、学生たちが少なくなった学校を閉鎖し合併するのだ。といっているが、政府が無駄遣いや横領などで予算がなくなり、短絡的に、学校を減らして予算を削ろうとしただけであろう。 アルキミン州知事の批判がテレビなどでも出るようになってきた。次の大統領選挙にも打って出たいと考えている知事にとっては、評判が悪くなることはできるだけ避けたいと思っているはずである。近いうちに学校閉鎖の告知はとりさげられるのではないだろうか? もちろん、来年は、閉鎖はしないけど(来年以降は不明)、というずるい注釈をつけて。
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