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南米漂流
     今日のブラジル 写真日記 (Photog...  (最終更新日 : 2023/01/16)
7.12 素直になれなくて [画像を表示]

7.12 素直になれなくて (2017/07/11) 毎朝、犬の散歩ですれ違う、マリア像を担いで歩くおじいちゃんの肩から像が消えた。
僕が犬たちの散歩を始めた頃から、像を担いで毎朝6時ごろカテドラル方面からうちのアパート隣のパン屋まで歩いていたから、僕が知る限りでもかれこれ7年以上である。
 いつも80センチほどのマリア像を担いでまるで何かを詫びているかのようにもくもくと片足を引きずりながら歩いていた。最近、足のひきずりが大きくなったように感じていたが、足がさらに悪化したのかもしれない。年老いた体には像を担ぐのが身体に堪えるようになったのだろう。もしかしたら医者から禁止されたのもかもわからない。
 反対の手には、鳩にやるためのパン屑いりの大きな白い袋を下げていた。一度、路上生活者が、袋に入ったパンを恵んでくれと頼んでいるにも関わらず、強い言葉で冷たく断っているのを見たことがある。おじいちゃんが、2,3か所でこのパン屑を鳩にやっているのを見て、「空飛ぶドブネズミと言われる、バイキンの運び屋である鳩に餌をやるくらいなら路上生活者にやればいいのに!」「自分は善意のつもりでやっているのだろうが、住人は迷惑だ。やるなら、自分の家でやれ!」と思った。後で考えると、もらった食べ物を食べて腹を壊したと裁判に訴えてくる輩が多いので、パン屋から人にはやらないでくれ、と頼まれていたのかもしれないことに気が付いた。帰りにタクシーを使っているのを見たこともある。自己満足であろうが、何年も毎日続けることはなかなかできることではない。むしろ凄いことである、と今は思えるが当時は金持ちじいちゃんの単なる自己満足と思った。 そんな訳で、彼には、あまりいい印象はずっと抱いていなかった。
 何年も日に一度、顔を合わせていたのに、一度も話したこともなかった。つい最近、仕事や祭日、雨の日が続いたために朝散歩にいけなかったことが続いた。久しぶりに、散歩を再開した日のことであった。ちょうど、ニンジャ(雄犬)の足が萎え、なんとかやっと、とぼとぼと歩ける状態の時であった。ニンジャと一歩一歩ゆっくりゆっくり歩いていると、前からやってきたおじいちゃんが「どうしたんだい、ずいぶんゆっくりだね」と言ってにっこりわらった。立ち止まって、彼は、もっと何かはなしたそうな感じがあったが、僕は「年をとってね」と返事して立ち止まらずに歩き続けた。彼は、立ち止まったままで、ニンジャがやっと歩いているのを見送って数秒後に彼もまた足をひきずりながら歩いて行った。
 僕は、このおじいちゃんをいろいろ誤解していたのかもしれない。片方の肩からはマリア像は消えてしまったが、パン屑が入った白い大きな小麦粉袋を提げて、今朝も片足をひきずりながら歩いているおじいちゃんに遭った。もう、いまさら、おはよう、と挨拶をする気はないが、心の中で挨拶を呟くようになった。

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コルポキリストの日に、偶然マリア像を担いだおじいちゃんを見かけた


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