2・26 日常茶飯事な人の死 (2018/02/25)
散歩をしようと、建物の門を出ると、パトカーが赤いサイレン灯をくるくる回したまま停まっていた。すぐ脇には人だかりができていて、妙に静かな雰囲気が漂っていた。近づいてみると、警官が大きな銀紙を横たわる男にかけるところであった。 一瞬、人の間から、倒れている男の顔が見えた。目をつぶり、安らかな顔をしているのが印象的であった。その倒れている男は、てっきり銃で撃たれて死んだのかと思った。その割には顔が強張っていないな、と思っていた。群衆の中から出てきた男に「彼は死んでいるの?」と聞いた。 その男は、何も答えることもなく、花壇の端に腰をおろし、顔を覆った。彼の目がほんのり充血しているのに気がついた。最初は、聞いているのに、無視するなんて失礼な奴だと思った。その場を離れて歩いていて、はっと気が付いた。おそらく倒れていた男は、男の知人だったのだ。 散歩から帰ってきて、門番に何があったのか聞いてみた。 「この建物の18階から飛び降り自殺をしたのだ」 「知り合いなの」 「夫婦で住んでいたよ」 なんの感傷もない普段と変わりない陽気な喋り方が、天井の高い入口のホールに響いた。 警官が銀紙を多い被せる瞬間、顔が遭った男の静かで安らかな表情が澱のように残った。 ブラジルでは、人の死なんて、さほど珍しいことではない。いつ、流れ弾が飛んできて死ぬかもしれないし、車が追突してきて死ぬかもしれない。あるいは、飛び降りた人に当たって死ぬかもしれない。感傷的になるほどのこともない日常茶飯事のことなのだ。改めて思い知った。
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