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南米漂流
     フェルナンド山本の「夜な夜な日記」  (最終更新日 : 2013/01/21)
夜話その9 成功

夜話その9 成功 (2008/11/08)  久々にTさんとナイトクラブに行く。いつもはカウンターでちびちびと独りでビールを飲むのだが、2人だから今日はテーブルである。
「ムッチリとしたタイプの女性がいないね~」とTさんが不満そうにいう。
 そう言えば、気がつかなかったが、背が高い痩せた女性が多い。東洋人の客が多いこの店は、当然東洋人好みの女性が集まる。だから、痩せた女性が多いのだろう。逆にブラジル男性は腰も胸もバンバンバンと張ったムッチリ女性が好みだから、この店にはあまりこない。
 しばらく二人でチビチビ飲んでいると、「煙草をくれない?」と背の高い結構かわいい白人系女性がTさんにモーションをかけてきた。結局、彼女の思惑は達成され、Tさんの横に納まった。
 僕はてっきり、以前から良く見かける女性だと思っていた。よくよく話を聞くと、彼女はその妹だという。整った顔立ちはお姉さんそっくりである。そういえば、口元や目元にどこか幼さが残る。
「で、姉さんはもう働いていないの?」
「彼女は日本人と結婚して日本にいっちゃったわ。成功よね! 彼女は私と違って綺麗だから・・・」
「娘がいたでしょう?」
「子供も一緒に日本もいったわ。成功よね~。あなた! 姉のことがすきだったんでしょう!」
 もう2年以上前に、たまたま友人がお姉さんを気に入り、横に座らせたことがあった。その時僕も少し話したので覚えていたのだ。友人によると随分商売っ気の強い女性だったと後で聞いた。
 彼女は目を輝かしながら姉のことを懸命に語り、「成功」という言葉を連発する。果たして成功といえるのかわからないが、その成功を手にするためにお姉さんもいろいろ辛い思いをしてきていると思う。お姉さんは彼女にとって憧れの存在だったのだろう、だから余計なことは言いたくなかった。まだ、この店で働き始めて2週間だという。20歳という若さと、田舎から出てきたばかりということもあり、いろんなモノが目新しくうつるのだろう。彼女は目をキラキラ輝かせながら、踊ったり、お酒を飲んだりいかにも楽しそうである。彼女が思っているほど、この夜の世界は甘くないのだが・・・。この世界で成功するにはお酒は飲んではならない。身体を壊すし、ずるい男に付け込まれるのが落ちである。また、男をその気にさせるには、横に座った男性にのみ注意を払い気を引かなければならないのだが、彼女は僕にしょちゅう話しかけてくる。しょうがないから僕も返答するが、Tさんもそんな彼女に少々機嫌が悪くなっている。
 彼女のまだまだ幼い無垢に近い笑顔を見ながら少々心配になってきた。と同時に3ヵ月後には、すっかり夜に染まった彼女のことを考えると寂しくなってしまった。
「本当はね、あなたの横に座りたかったのよ」そういって彼女は電話番号をくれた。そういわれても金のない僕のような無力な男には、彼女を「成功」に導く手立てはないのだが。早くお姉さんのようにいい男を見つることを祈りたい。


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