夜話その12 切ない思い (2009/01/08)
ナイトクラブのカウンターでいつもの様に独り缶ビールをチビチビと飲んでいると、スレンダーなモレーナが横にやってきた。ちょっと憂鬱そうな暗い顔をしている。バーテンダーが気を利かして、紹介してくれた。いい子だよ、とぼそぼそっと耳打ちしてくれた。ノーブラのポチポチッとTシャツに突 起した乳首にどうしても目がいっていってしまう。 「ルシアーナよ」 「フェルナンドだよ。何処の出身なの」 「サンパウロ州のピラシカーバっていう田舎よ」 「行ったことがあるよ。大きな川がある町だろう」 「へー、そうなの!」一瞬、ニッコリした表情は、花が咲いたようにぱっと華やかになった。 笑顔が素敵なのに、もったいない、どうしてこんな暗い顔をしているのだろう。 「笑顔がきれいだね。暗い顔しているともてないよ!」 というと、彼女は無理に笑顔を作ろうとしたので、おかしくなってちょっと笑うと、彼女もつられてニッコリわらった。 それから、彼女は堰を切ったように話し始めた。 「実話ね、今、日系人の、40歳の彼と付き合っているんだけど、昨日から電話がかかってこないのよ!」 「ふ~ん」なんだ彼氏がいたのか・・・・ちょっとがっかりしてしまった。彼女はだんだん早口になり、僕の語学力では理解不能な部分がでてきた。 「毎日、毎時間、ずっと彼のことを考えて心配しているのに、電話がないのは、失礼でしょ!今朝はメッセージを携帯で送ったんだけど、普段だったらすぐに返信がくるのに、今日は来ないの! 心配だわ!!」 彼女は今26歳、4歳の息子がいる。できちゃった結婚をしたのだが、相手の男を好きでもなんでもなかったらしい。じゃあ、何故結婚したの? と聞くと、数秒おいて、「だってやりたかったから」というあっけらかんの答えが返ってきた。そんな訳で、すぐ別れたらしい。こういう結婚も辛いな、別に好きでもない女と例え子供ができても結婚するなんてできるだろうか・・・・。 黙ってフンフンと聞いていると益々彼女は乗ってきた。あまり話す相手がいないのかもしれない。 「一度、レストランに連れて行ってくれたんだけど、凄くシックなイタリアンでね。周りの人が気にかかるし、慣れないからあんまりおいしく感じなかったわ。私にはバールのホットドッグでもいいのよ。彼さえいてくれれば。彼のために、髪も金髪から黒に染めたのよ」 さらさらの髪の毛に触りながら、彼女は切なそうに目を落とした。もともとは、黒髪だろうから、もし金髪だったら、ケバイ感じがして「夜の女」、ということがすぐ解るだろう。彼女の彼に対する気持ちに、思わずヤキモチを焼いてしまった。これほど、僕は女性に思われたことがあるだろうか? 僕はいつも間違った女性の選択をしているのかもしれない。 「映画に行きたいんだけど、連れて行ってって、言ったら彼に嫌われるかしら?」 「そんなわけないよ。多分喜んで連れて行ってくれるよ」 こんなに女性に思われる男がどんな男なのか知りたくなった。 「で、その男はかっこいいの?」 「そんなにかっこよくはないけど・・・・。でも、私にはとってはかっこいいわ」 あはっ、聞くんじゃなかった。 一度でいいから、こんなに女性から思われてみたい。
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