夜話その15 続・切ない思い (2009/02/05)
月に1度は夜の街を徘徊することにしている。別に女性と何をするでもなく、バーテンダーや女性たちと話をするくらいだが、それでも十分楽しい。時に、ドキンとするような綺麗な女性に出会い、誘われることもあるが、相手は、当然お金目当てであるから、とてもとてもそんな余裕のない僕にはお相手できない。 ケチで貧乏な男と思われるのが嫌だから、僕の方から声を掛けることはまずない。バーテンダーと話し込んでいると、後ろから目隠しをする女がいる。いったい誰だと思いながら、目を塞いでいる手を取って、後ろを振り向くと1月ほど前にあったルシアーナが立っていた。僕のことを覚えていてくれたのだ。彼女は、顔ではニッコリ笑ったが、目になんとなく元気がない。 「元気? あれから彼氏とはどう? うまくいっている?」 「別れたの・・・・・」彼女の顔はみるみる暗くなり、伏し目がちになった。 「えっ、どうして?」 「前に付き合っていた19歳の娘と、彼またヨリを戻したのよ。で、別れようと言ってきたの!」 「・・・・・・・・・」 「19歳の娘なんかとうまく行くわけないわよ。彼はもう40なのよ。40。彼女は、絶対彼のお金が目当てなのよ。私は彼が生活の足しにってくれていたお金はすべて返したわ。お金じゃなくて本当に愛しているから、彼のことを。あなただったら、本当に愛してくれる女性と19歳の娘とどっちがいい?」 「そりゃ本当に愛してくれる女性さ!」と彼女の勢いに押されて答えたが、26歳の子持ちの夜の女性と19歳の大学生、もし19歳の娘も愛してくれるとしたら、やっぱり19歳の方かな・・・・、と思ったがとても口に出せなかった。 彼女はだんだん興奮してきて 「彼とはもう絶対会わない! 完全に別れるわ!」と言ったかと思うと、「彼が私の所にもどってくるまで待つわ」といったり自分で言っていることが解らなくなってきたようである。 そうするうちに、顔がくしゃくしゃになり、泣き声になってきた。サンパウロの、夏の、夕の天気のように激しく変わる彼女の様子に驚いた。女の涙には弱い僕はオロオロしながら、彼女を軽く抱いて慰めた。 「彼のすべてが好きなの。音をたてながらレタスを食べるところも、鼾をかくところも、もうすべて。他に、こんなに彼を好きになれる女がいると思う? 今はこんな仕事しているけれど、別れた夫以外男はしらなかったし、本当に愛した男は彼だけなのよ」 「きっと彼は戻ってくるよ」そういうしかなかった。 「男は悪い女に惚れるのよね。彼が私の所に帰ってくるまで待つわ」 「うん、がんばれ。40歳の日系人は、19歳の娘に棄てられてきっと君の所に戻ってくるよ」 世の中には、僕のように持てない男もいるが、この男のようにモテモテ男もいるのだ。まったくもって不公平な話である。でも、女を泣かした男はきっと女に泣かされることになるだろう、それが僕の持論である。
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