夜話その18 さよなら、ヴァゴーン。 (2009/08/19)
「ねぇ、ねぇ知ってる! ヴァゴーンが先週で閉まちゃったのよ」 久々に会った夜の女友達の話を聞いて衝撃が走った。 「えっ~」思わず、寸頓狂な声を出して、周囲の人の注目を浴びてしまった。 ヴァゴーンはサンパウロの数あるボアッチ(ナイトクラブ)の中でも、日本人に特に愛された店であった。駐在員たちの中には、第2、第3の青春時代を味わった人も多いだろう。僕もその口で、来ていた女性にすっかり入れあげてしまったこともあった。(結局振られてしまったが・・・) 3週間ほど前に行った時には、週末にもかかわらず女性も客もほとんどいなくて驚いたものであったが、既に閉まる兆候が出ていたのだ。でもまさか閉まるとは・・・・。せっかくボトルを1本無理して入れていたのに・・・。 カウンターでバーテンダーが言った言葉を思い出した。 「もう、この店も20年になるんだよ。自分はその頃から働いているんで、店の状況が悪くなってもなかなかやめられないんだよね」彼は過去の栄光を懐かしむような遠い眼をしてポツンと言った。 10数年前に、この店に連れてきてもらったときには、その華やかさとモデルのように綺麗な女性たちを見て、それこそ夢心地になってしまった。それ以来、入り口から敷き詰められている、赤い絨毯を踏んで中に入るたびに胸は高鳴り、心躍ったものであるが、ここ数年はすっかり寂れてしまい、店には以前の活気は感じられなかった。そして、ついに昔の栄光は戻ってこなかった。 この20年の間に、毎夜毎夜、何千、何万という男と女の擬似愛を演出してくれたこの店もついに無くなってしまった。これが時代の流れというものか。サンパウロの夜がまた寂しくなってしまった。 さよなら、ヴァゴーン。ありがとうヴァゴーン。
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