夜話その31 都会の中の天使 (2012/11/19)
一人でいつものバールでチビチビとビールを飲んでいると、うしろから肩をバンバンと叩かれた。振り向くと大柄なエミリーがニコニコしながら立っていた。「フェルナンド、元気!!」ハスキーヴォイスと言えばかっこいいが、彼女の声はしゃがれた声というのがピッタリだ。 「なんだ、エミリーか。強くたたきすぎだよ」 「日焼けサロンで焼きすぎちゃって、もう真っ赤よ。カマロン(海老)。カマロン。係りの人間が知らせるのを忘れちゃってさー」そう言って乳首が見えるほどまでタンクトップを下げて真っ赤な肌と焼けてない白肌の差をみせた。 「オイオイ」驚いて僕の方が慌てて彼女の胸を隠した. 「大丈夫よ。誰もみてないから」赤くなった肌を見ると、確かにゆでエビである。日本だときっとゆでダコと言っただろうな・・・、タコをあまり食べないブラジルではゆでエビなのだ。そんなことを考えながらニヤニヤしていると、「何笑っているのよ!」と言って彼女は口をとんがらせた。 エミリーは南伯出身の白人系のかなりぽっちゃり目の女性。日本でいえば、完全にデブのランクに入るだろう。ブラジルでは、まだまだ上がいるのでちょっと太ったクラスである。しゃがれた声とこの太った身体が彼女の魅力を半減してしまうが、顔は綺麗だし、性格は明るいし、サービスは悪くなようだから、日本人のお客は少ないがブラジル人のお客はついているようである。年齢は20代後半、おちゃめなところがあり僕はけっこう彼女のことが好きである。 「まあ、1杯どう?」 「ありがと。でもダイエットしているからね~・・・。まっ、今日はあんまり食べてないからいいかな」そう言って、ゴクリとビールをのんだ。 「この間さ、変な男にあたちゃってさ」 「へ~、どんな男?」 「それがさー、学校で女の子同士が喧嘩する動画を見て興奮するの。ちょっと変じゃない! その喧嘩の様子を何度も何度も話すのよ!! そうして、私の口元に指を入れて左右にイ~ってひっぱるの。もちろん力任せじゃないから痛くないんだけど、気持ち悪くてね~。彼はそれでえらく興奮しちゃって、自分でしごいていっちゃうの」 「それは、ただ頭がおかしいだけじゃない? そういうのってちょっと怖いね」 「あなたも、そう思う。ちょっと太った、30はじめの男よ。何度か店に来ているんだけど、いつも背の低い娘を選ぶの。私は大きいけどね。でも顔は可愛いでしょう! 彼、ロリコンの気があるみたい」 「それで、君は何もしないの?」 「服脱いで、口をひっぱらせてあげて、話を聞いてあげて、それで終わり。楽といえば楽なんだけど。ちょっと気味がわるいわね~」 「ふ~ん」あっという間にカラになった彼女のコップにビールをついだ。 「あ、そう、そう、日系人の小太りの男なんだけど、ひたすら会社の同僚の女性のことを話す男もいたわ。その同僚のことを彼は好きらしいんだけど、恥ずかしくって話もできないんだって。彼女は彼が自分のことを思っていることを知っているみみたいで、この間3000レアルも貸してくれって言ってきたらしいわ。貸したらしんだけど、結局返ってこないでしょうね。悪い女はいっぱいいるからね~」 「へ~、それで」 「一応、私も裸になるんだけど、結局、何もしないの。1時間ただただ、彼女のことを話し続けて自分でしごいて終わっちゃう」 「導いてやればいいじゃない」 「お尻つきだしたり、寝かせて騎上位をしようとしたけど、ぜんぜんだめね。じっとして挿入できないみたい。たぶん精神的に問題があるんでしょうね。でも、職場では会計の仕事をしててちゃんとやれてるようだし・・・・。映画の「レインマン」の主人公のような病気じゃないかしら」 「いろんな客が来るんだね~。そんな人まで相手するなんて、それこそ天使だね!」 「そうね。そう思うでしょう! ところで、今日やって行かない?」 「えっ!?、持ち合わせがないんで、またね」そういうと、「今度必ずよ! じゃ、またね~」と言って大きなお尻を揺らしながら帰っていった。 他の女性にも同じようなことを聞いたことがある。やはり、精神的問題のあるお客も随分いるのだろう。世間からは白い目で見られている彼女らではあるが、たとえお金のためと割り切っても、精神障害のある男性や、変態男、好きでもない男達を優しく慰めることができる女性はなかなかいないと思う。彼女らはまさに都会の中の天使である。
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