カランジルー刑務所見学記 (2026/10/25)
所内での暴動があとを絶たず、凶悪犯の脱走が度重なっていたことなどで有名だったカランジルー刑務所。今年(2002年)九月に閉鎖し、収容されていた囚人たちは地方の各拘置所に振り分けられたと伝え聞く。跡地は市民の憩いの場となる公園に生まれ変わる予定で、現在、少しずつ工事が進められている。所内は一般市民にも公開されており、囚人たちの「ムショ暮らし」のあとが今も生々しく残っている。同刑務所を見学してきた。
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同刑務所は、サンパウロ市地下鉄南北線(青線)カランジルー駅のプラットホームに降りると階下に広がる薄レンガ色の建物がすぐに目に飛び込んでくる。訪問した日は土曜日の昼過ぎとあって、学生や家族連れの姿が多い。 所内に入っていくと、市の職員関係者に名前と電話番号を書かされ、門をいくつかくぐると、かつて囚人たちが過ごしていた建物が目の前に現われた。 職員の説明では(2002年10月)現在、日に約四千人の見学者が詰めかけ、週末ともなるとさらに人出が多くなるという。一般の訪問は十月二十日までの予定だと聞いていたが、さらに一週間延長されると関係者の一人は言う。しかし、別の職員からは「十一月下旬まで開いている」とも聞かされ、情報は錯綜(さくそう)しているようだ。 囚人たちが収容されていた建物の下をくぐると中庭らしい空間に出た。そこには、各部屋から外したと思われる扉が一定の間隔で立てかけられ、その表裏にはキリスト像や女性などの絵が描かれている。この空間は囚人たちの運動不足解消に用いたものらしいが、不思議なオブジェ(物体)群はどこか芸術的ですらある。 中庭から鉄格子のはめられた各部屋を見上げると、ところどころ黒く焼け焦げたあとがあり、テレビの中継で見た暴動の際の火災の記憶が蘇る。 この建物の階上の部屋には入れないが、中庭内側の周辺には囚人たちが作ったタバコ用パイプ、刺青彫り器、絵画のほか出刃(でば)包丁や大鉈(なた)など生活品とも凶器ともとれる類の品々が展示されている。 また、囚人たちの両腕が撮影された全紙大の写真もある。聞けば脱獄した囚人には、その回数に比例して腕や手の甲に目印となる刺青が刻まれるという。 訪問した人々のほとんどはカメラやビデオを持参し、中庭にある扉群や展示物などを興味深そうに写している。 さらに「イグレジャ・エバンジェリカ」と書かれた礼拝堂もあり、薄暗い室内の中の壇上には礼拝用の布切れの鈍い白さが浮かび上がっている。 囚人たちが実際に過ごしていた部屋を見るため隣の第五パビリオンへと向った。
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隣の第五パビリオンに行くために、高さ十㍍ほどの鉄板でできた門をくぐる。 いよいよ、囚人たちが過ごしていた部屋へと入る。地階(日本で言う1階)は薄暗く、自然光もあまり入っては来ない。外の気温の高さとは反対に内部はヒンヤリとしている。各部屋の大きさは幅二㍍、奥行き三㍍ほどと狭く、部屋の角に沿ってL字型に二段のコンクリート製のベッドが設置されている。部屋内部の手前には仕切りのないトイレがあり、日本の和式便所よろしく便器の両横に足を置く場所があるだけだ。そこはシャワーも兼用らしく、上部には水道用の鉄管が突き出ている。 壁には囚人たちがこよなく愛したと思われる週刊誌から切り取られた女性の裸体写真などが、そこらじゅうに張られている。訪問した際には部屋の臭いなどはほとんどなかったものの、暗くジメジメした湿り気が、身体にまとわりつく感じがした。 同行した友人は「こんな部屋に何人も一緒に詰め込まれていたんでは、脱走したくなるのも無理はない」とため息交じりに話す。 地階を出て、一階の部屋へと上がってみる。一階は地階よりも光が入り、部屋やその外壁にも青みのあるペンキが塗られており、比較的こざっぱりとしている。部屋の中にはレンガの表面を削って電線を通して作られた電気コンロをはじめとする生活用品、山海の風景やキリスト像、お気に入りのフッテボール・チームのマークなど思い思いの絵が所狭しと描かれている。 トイレも仕切り用のカーテンが吊ってある部屋もあり、地階との差は明らかだ。 第五パビリオンを出て帰ろうとすると、表門の近くで人の列ができている。関係者に聞くと、カメラを持ってきた人は刑務所内を監視する外壁の塀の上を歩けるとのことで、こちらも一緒になって列に並ぶ。 外壁の上部には、わずかに人一人が通れるほどの通路があり、そこから所内を見下ろすことができる。反時計周りに人々は写真を撮りながら前へと進んでいく。塀の角々には刑務所特有の監視台があり、外壁からさらに十㍍ほどの高さでそびえている。 蒸し暑さに汗がにじむと思っていたら、急激に空に黒雲が広がり、雷が鳴り出した。大粒の滴(しずく)が落ちだしたと思うと、見る見るうちに大雨となり、身体を濡らしていく。外壁上には数十人の人々が一列に並んでおり、思うように動きが取れない。 係員が「早く行け」と先を促すが、場内を一周するには約一㎞ほどの距離を歩かなければならない。ずぶ濡れになりながら、小走りに前に進むしかない。あまりの雨の激しさに階下を見ている余裕もない。 人々の罵声や嬌声が聞こえる中、ようやく元の場所へとたどり着いた。雨にやられた人々の中からは、「(所内で亡くなった)囚人たちのたたりだ」と冗談めかして言う声も聞こえた。 刑務所を出る頃には雨も止み、西の空には傾いた太陽のオレンジ色の光が反射していた。(おわり)
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