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マツモトコージ苑
     2010年  (最終更新日 : 2018/09/14)
竹にかける思い [全画像を表示]

竹にかける思い (2018/09/04)  「竹やぶを持っている農家の人たちに、竹の価値を伝えたい」―。パラナ州中南部のパルマスでリンゴ生産を行い、その合間に竹の加工品づくりの活動をする嶋田雅信さん(55、2世)は現在、ブラジル各地を回り、竹の講習会を実践している。「竹炭」や竹の繊維でできた紙づくりなど、誰でも手軽で安価でできる手法を教授することが目的だ。サンパウロ近郊コチア管内にある「コレジオ・コスモス(加藤きよみ校長)」で行われた講習会には、ブラジリアからも参加者が詰めかけた。嶋田さんの竹にかける思いと、講習会の模様を紹介する。

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竹ついての講習を行う嶋田さん(左端)
 現場に行くという知人の車に同乗。ラポーゾ・タヴァレス街道からカウカイア・デ・アルトの標識を目標に脇道に入り、山道を少し行ったところに今回の講習を行っている「コレジオ・コスモス」があった。
 中に入ると、陽に焼けたがっしりした体格の嶋田さんが、初対面ながら人懐っこい笑顔で迎えてくれた。
 嶋田さんは、パラナ州アサイに在住する嶋田巧さんの長男で、幼少の頃から日本語で躾けられたという。
 「当時は何のために日本語を勉強するのかと疑問に思っていましたが、今では日本語の本も不自由なく読むことができるようになり、親には本当に感謝しています」と明るい表情を見せる。
 少年時代から農業を手伝いながら育ち、「昔から植物に触れるのが好きだった」という嶋田さんは現在、パラナ州中南部のパルマスでリンゴ栽培を行っている。その合間に竹の講習会を開き、これまでにブラジリア、カンピーナス、グアルーリョスなど各地で実践してきた。
 本格的に竹に触れるきっかけとなったのは2003年。「竹が面白い」という戦後移民と出会い、自身も興味を持ちだした。
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竹の繊維で作られた紙に施された書道の文字
 パラナ、サンタカタリーナ、南大河州と、竹のあるところを歩き回り、07年には3か月にわたってJICAの日系研修制度を利用して、富山県の植物園で竹の研究を行った。
 同植物園園長で、竹の研究を約60年近く行っているという内村悦三氏と出会い、毎日、竹に関する話を聞きながら「タケと竹を活かす」をはじめとする同氏の著書の数々に感銘を受けた。
 内村氏の研究に基づいた嶋田さんの説明によると、竹には自生のものだけで1262の種類があり、原産は中国、日本などの東アジアだが、熱帯性気候のタイ、ミャンマー、ベトナムなどにも群生。ブラジルにも75種類があるという。
 伯国内での熱帯性の竹はポルトガルやスペイン系移民が持ち込み、籠(かご)などの加工品として製造されている。
 一方、温帯性の「淡竹(はちく)」「孟宗」などの竹は、日本移民が持ち込んだとされる。「食」としての筍(たけのこ)をはじめ、竹を使った日用品や装飾品は「日本文化」を代表するひとつとして、ブラジル社会にも浸透しつつある。
 嶋田さんの話では、サンタ・カタリーナ州クリチバーノスのラーモス移住地では、生産物のニンニクを干すために竹を植えたそうだ。
 「一番の問題は、竹が増えすぎること」と嶋田さんは、その有効的な活用法を教授するため、竹のある場所に赴き、各地でこうした講演会を開いている。

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窓ガラスに貼られた竹の紙を剥がす嶋田さん
 この日の講演会は、実は2日目で、前日には竹の繊維から紙を作る実習がすでに行われていた。紙を自然乾燥させるために、教室の窓ガラスにはハガキ大の黄色味を帯びた紙片が、そこらじゅうに貼り付けられている。
 紙を作るのに、竹の繊維を細かくするための道具として家庭用ミキサーを使い、紙を抄(す)く道具は、木片に網戸を張って工夫した自作品が準備された。嶋田さんに聞くと、竹炭づくり用の窯も、レンガで造る窯は手間と金がかかるため、ドラム缶(タンボール)を使用するなど身近なものを安価に利用ことを心がけているという。
 嶋田さんがパソコンの中にファイルしているこれまでの作品の中には、金属部分を竹に代えた自転車もあった。「皆さんに、こういうこともできるという例を出し、それぞれにアイディアを出してもらうのです」と、竹で作ることができる意外なものが多いことを説明してくれた。
 2日目の講義が始まり、生徒たちが嶋田さんの話に聞き入っている間、今回の場所を提供した「コレジオ・コスモス」の加藤校長(74、3世)に話を聞く。
 それによると、元々同地は、コチア組合創設者の故・下元健吉氏が所有していた土地で、後に分譲した土地の一部を加藤さんが購入したのだという。
 竹は加藤さんが購入した当初から群生しており、同氏が伝え聞いた話では、第2回旅順丸移民だった高知県出身の矢野という初期移民が日本から竹の苗を持ってきたそうだ。
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講習会の場所を提供した「コレジオ・コスモス」の加藤校長
 「サントスに上陸した時に、竹の苗はブラジルに持って入れないということで、そのまま海に捨てたそうですが、その後に税関員が見ていないところで海に捨てた竹の苗を探して拾ってきたそうです」と加藤さん。自身の母方の父親も「旅順丸」移民で、同じ高知県出身だった。
 加藤さん自身は、聖市で師範学校を卒業後、コチア市で7年間、教育委員会関係機関に勤めた。その後、77年から5年ほどヴァルゼン・グランデに住み、95年から現在の私学「コレジオ・コスモス」を同地に開校させた。
 現在の生徒数は9人。10歳前後の混血児が大半で、教師は加藤さんの娘2人が務める。校内は竹をはじめとする緑が一面に広がり、自然学校の様相を呈している同校では、生徒たちに教育の一環として野菜づくりも行わせている。
 「日本文化を伝えることが目的」という加藤さんだが、「ここでは一般のブラジル人に日本文化そのものを伝えるのは難しく、本当に日本文化を習いたい人に絞って教えている」という。
 同校で昨年から面白い試みが実践されている。昨年11月に初めての「竹祭り」を開催した。竹の魅力を身近に知ってもらおうと、周辺地域の子供たちとその家族が参加し、竹の加工品づくりや竹を使った音楽会、講演会などが行われた。
 同イベントを「今後も続けてやっていきたい」との意気込みを見せる加藤さんは、そのためのスタッフ育成も考慮している。

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嶋田さん(中央)の指導で竹を切る参加者たち
 机上の講義だけでは、受講者も飽きてくる。嶋田さんの講習会では、常に参加者に自分の手で実践してもらうことを心がけている。
 講義を終えて、午前11時頃から参加者全員で校内にある竹林に入る。孟宗竹と淡竹(はちく)が生い茂る竹林の中に入ると、昼間でも薄暗い。高さ10メートルほどの青々とした竹が、びっしりと生えている。
 根元の直径が15センチほどもある竹を選んで切り倒し、嶋田さんの指導で参加者たちがさらに1メートルほどの長さに切っていく。
 竹は、ブラジルでは「樹木」ではなく、「草」と見なされているため、いくら切っても問題がないのだという。
 「これだけの良質の竹は、日本でも珍しい」と嶋田さんは、同地に群生する竹を褒め称える。
 それぞれに切った竹を持って、教室の外にある広場に集まる。嶋田さんが、レンガを積み重ねて簡易の焼き場を作り、竹を火であぶる「油抜き」の実演をやって見せた。
 火で表面をあぶった竹は、布などで磨くと光沢が出る。装飾品などにする竹の加工品では、この作業を行うことで色艶良く見せることができる。
 子供が「コレジオ・コスモス」校の生徒で、夫の森山茂さん(42、3世)とともに受講したイタペビ在住の二部(にべ)真喜子さん(43、2世)は、昨年11月の『竹祭り』に参加したことが、同講習会に来るきっかけになったという。
 「竹にはいろいろな使い道があることが分り、とても楽しいです」と、二部さんは微笑みながらも積極的に作業に取り組んでいた。
 また、モイニョ・ヴェーリョに住んでいる岐部(きべ)アリセさん(83、2世)は、やはり姪たちが同校を卒業したこと縁で加藤校長と知り合い、今回のブラジリアからの受講者たちの橋渡し役を行ったという。
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同地に茂る竹林
 「本当はこの講習会をブラジリアで開きたかったというのですが、向こうには竹や窯などが無いので、きよみ(加藤校長)さんに紹介したのです」(岐部さん)
 教室の机の上には、竹細工でできたトンボ型の「ヤジロベー」が飾ってあった。加藤校長に制作者の名前を聞くと、サン・ロッケに住む古川満正さん(47、2世)の作品だという。加藤校長の連絡で、講習会に顔を出した古川さんに話を聞く。
 古川さんは、愛知県などで19年間、出稼ぎとして働き、昨年7月に帰伯した。仕事の合間に、愛知県の写真屋に飾ってあったトンボ型のヤジロベーを見様見真似で作ることを覚えた。
 「最初はバランスをとるのが難しかったが、今は簡単に作ることができる」と古川さん。自身の家の周りにも竹林があり、材料には困らない。現在、エンブーのフェイラに出店することを考慮している。
 教室の外では、嶋田さんによる竹炭作りの講習が続く。嶋田さんが自身で創った専用道具で竹を4等分、あるいは8等分に縦割りし、ドラム缶の中ですでに出来上がった竹炭を用いて参加者たちに説明を行う。
 竹に興味のある人たちが集まり、その加工品づくりを実践していく。「竹の魅力を知ってほしい」と願う嶋田さんの熱い思いが参加者にも伝えられていた。(おわり)


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松本浩治 :  
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