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     2011年  (最終更新日 : 2018/09/24)
APPC第5回4州果樹生産者技術交流会

APPC第5回4州果樹生産者技術交流会 (2018/09/19)  APPC(パウリスタ柿生産者組合、牛腸(ごちょう)修二理事長)が主催する第5回4州果樹生産者技術交流会が、2011年3月4日、5日の両日、サンパウロ(聖)州ピラール・ド・スールを中心とする周辺地域で実施され、サンパウロ、パラナ、ミナス、サンタ・カタリーナ各州から約100が参加した。JICA派遣シニアボランティアの浦田昌寛氏が各地域で率先して技術的な説明を行い、出席した人たちは、3期6年間にわたって日本の農業技術移転を行った浦田氏の貢献に感謝の気持ちを示していた。

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 初日の4日午前9時から開かれた交流会では、最初にAPPCの地元であるピラール・ド・スールの森岡農場を訪問。同農場では、富有柿、ブドウ、デコポンをはじめ、2000年からアテモヤ1200本を栽培している。
 浦田シニアによると、アテモヤは昨年1本の樹木から90個しか実にならなかったとし、今年は剪定(せんてい)方法を変えたことにより、390個が結実したという。
 単に数を増やすだけでなく、果実に養分を入れることを目的に1個500グラムの大きさの果実を生産するため、一つの枝の葉の枚数を20枚になるように剪定することを説明した。その上で浦田氏は、「大切なのは果実が何年獲れるように育てるかだ」と話す。
 午前11時、同じピラールの伊藤農場に移動。農場主の伊藤正男さん(70、2世)は聖州パラグアスー・パウリスタで生まれ、同地に住んで63年になる。父親の時代から柿(タウバテ種)を栽培し、当時はトマトやジャガイモなども作っていたという。
 現在は長男と次男が後を継ぎ、APPCのオリジナル・ブランドである「金星」(デコポン)やアメイシャ(スモモ)などを手がける。デコポンは浦田シニアの提案で、04年にミナス州ツルボランジアから穂木(ほぎ)を購入して栽培を開始した。
 APPCでは、「デコ」の部分まで100%黄色で、酸度1・2%、糖度12度、重量350グラム以上のものを「金星」と呼ぶ。それ以下のものは単なる「デコポン」として扱っており、「金星」づくりに対する思いは強い。市場への出荷は、3割が「金星」で残りの7割が「デコポン」となっている。
 参加者一行は幹線道路をわたって、伊藤農場のアメイシャの試験栽培を続いて見学する。
 同地は、0・86ヘクタールの土地にJICAおよびエックス都市研究所の援助を受けて、昨年9月からREUBENNEL種のアメイシャを試験的に栽培している。
 浦田シニアの話では、同地では約20年前までアメイシャ作りを行っていたが樹木の寿命が短いために収穫量が減少し、採算が合わなかったという。今回、日本方式を導入。桃の台木に接ぎ木し、深く根付かせるために50センチ幅の溝を作り、排水を良くしているのが特徴だ。
 害虫防止のために日本から持ってきた「ソルゴ」と呼ばれる植物を隣接地に植え、ソルゴに油虫などが集(たか)った後は、その木を切り倒して処理するという。
 浦田シニアは「目標として30年は、もたせたい」とし、アメイシャの樹木を深く根付かせることともに、土づくりの大切さを強調していた。

(2)

 正午過ぎ、一行はピラール・ド・スールの豊田農場に向かった。
 農場主の豊田一夫さん(73、栃木県出身)は1954年に渡伯。アマゾン移民としてトメアスーに入植後、64年にピラールに転住してきた。トマトやブドウなどの野菜・果樹栽培に携わってきたが、79年頃から柿中心の生産に切り替えた。現在は、長男の茂さん(46、2世)に引継ぎ、柿だけで70ヘクタールの土地に3万本、ブドウは5ヘクタール分を栽培している。
 また、10年ほど前から銀杏(ぎんなん)も植えており、今後の日本への輸出なども視野に入れているようだ。
 昼食をはさんで午後3時からは南セルジオ氏の農場へ。同農場では父親の時代から桃生産を手がけ、新種のアメイシャを2007年から栽培している。
 浦田シニアは「悪い性質の枝を切ること」を奨励。「10年や15年の樹齢では儲からない。日本の桃は40年から50年もつ。必要以上に花と実を付けさせないことが必要」と指導していた。
 しかし、実際の剪定作業は難しいようで、浦田シニアが「この枝は必要ない」と自ら剪定バサミで切っていくと、南氏は「先生、この枝も切る必要があるのですか」と戸惑いながらも、改めて技術指導の大切さを実感していた様子。
 午後5時からの柿祈願祭を前に、この日最後の視察地である牛腸APPC理事長の農場を訪問する。
 同農場も30年ほど前から柿生産を実施し、現在は、リンゴ(エバ種、05年)、アテモヤ(05年)のほか、洋ナシ(08年)なども栽培。柿は、ラマフォルテ種だけでも年間70~80トンを生産している。樹に成っているラマフォルテ種の柿を見せてもらうと、実の付いた枝が地面に着きそうなくらい、びっしりと生(な)っていた。
 そうした中でも牛腸理事長は、労働者を10人弱しか使用せず、家族が中心になって生産活動を実践しているという。
 牛腸農場での柿祈願祭を終えて、この日の予定は終了した。
 翌日は、午前9時からコロニア・ピニャールの山下農場を皮切りに、技術交流会を再開。同地でも「金星(デコポン)」やブドウの生産現場を視察した。
 特にブドウは、雨によって実が割れることと糖度の低下を防ぐため、傾斜している栽培地に網状の天幕が張られている。網のところどころにビニールを帯状にして垂らし、実に当たらないように雨水を地面に落とす工夫がされている。さらに、落下した雨水が溜まらないよう地面にビニールシートが敷かれてあり、傾斜を利用して水が下方へと流れていく仕組みになっていた。
 その後、一行は篠崎農場(洋ナシなど)、ピエダーデの益田農場(柿、アメイシャ、アテモヤ)を訪問し、技術交流会を無事終えた。
 サンパウロ市のCEAGESP(聖州食糧配給センター)内で果樹類を扱っているパラナ・コメルシアル・デ・フルッタスの江頭正明代表は、「長い間、ブラジル各地で生産地を見せてもらったが、これだけ熱心にジア・ド・カンポ(農業技術交流会)を行い、一生懸命やっているところも珍しい」と感心する。
 また、ピエダーデで果樹生産を行う益田照夫氏は、「APPCをはじめピラール周辺地域は、良い意味で生産者同士が競争している。それぞれに情報交換し、若い世代も育っている。技術もしっかりしているし、良いものを作ろうとする思いがある」と、同地域のさらなる発展を期待していた。(おわり)


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