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     南米日本移民の肖像  (最終更新日 : 2024/10/27)
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矢野久さん (2019/08/13)
2010年2月号矢野久さん1.jpg
 会計士で、チエテ郷土会会長を務めるサンパウロ市在住の矢野久(やの・ひさし)さん(83、愛媛県出身)は、戦後間もない頃から約60年にわたってブラジルと日本の切手収集を独自に続けてきた。特に日本の切手は、明治、大正や昭和(戦前・戦後)の貴重な品々まで所持しており、マニアの心をくすぐる逸品も少なくない。
 少年時代に家族とともにチエテ移住地(現・サンパウロ州ペレイラ・バレット)に入植し、同地で商店への丁稚奉公、アラサツーバでの勉学と勤めを経て、28歳からサンパウロ市に転住し、会計士業務を行っている矢野さん。切手収集はアラサツーバ時代にブラジル人の友人の影響を受け、24、5歳くらいから始めた。当時はまだブラジルの切手収集が専門だったが、サンパウロに出てきてから、日本の切手にも興味を持った。
 日本の切手は当時、日本との文通などで知り合った友人たちに依頼して郵送してもらっていたという。「届いた切手を見る時は、本当に嬉しかったね」と矢野さんは、日本の友人たちにはブラジルの切手を購入して送っていた。
 収集品の中には、1894年3月9日に発行された「明治銀婚」をはじめ、「日韓通信合同」(1905年7月1日発行)や「日露戦役凱旋」(1906年4月29日発行)のほか、戦後初の切手「郵便創始75年」(46年12月12日発行)などの貴重品が並ぶ。
 また、文化切手、観光切手、国立公園切手のほか、各種記念切手が年代別にアルバムに整理されており、「日本郵便切手商協同組合編」のカタログに掲載されている見本のほぼすべてを揃えている。
 さらに、単切手だけでなく、記念切手のシートなどもほぼ揃っており、50年代から始まった毎年恒例の「お年玉切手」については、2000年に日本切手収集を止めるまで全シリーズがある。
 日本の切手はその後、ブラジル国内でも販売されていたという。伯国内で買う日本の切手は、日本で買うものより割高だったが、矢野さんはサンパウロ市セントロ区にあった販売店に「月に3回は足を運ぶ」ほどの熱心さだった。
 「日系人の収集家はあまりいなかったけれど、ブラジル人などと集まって、情報交換したり、珍しい切手を見せ合ったり、これが一番の楽しみだった」
 ブラジル切手に関しては07年まで収集し、ここ十数年の記念切手だけでも、ブラジル代表W杯優勝、レアル通貨変換、日伯修好100周年、ブラジル発見500年などがあり、そのすべてに記念のスタンプが押印されている。
 矢野さんの話では、ブラジルの記念切手は、発行された当日に買いに行かなければ、「次の日には記念スタンプは押してもらえない」という。そのため、切手が発行された日にはよく、仕事の合間を縫って郵便局の行列に並んだとも。本当に好きでなくては続かない作業だ。
 07年に切手収集は止めたものの、一昨年(2008年)の移民100周年の記念切手だけは購入したと話す矢野さんは、これまで集めた「財産」を前に充実した表情を見せていた。(故人、2010年2月号掲載) 


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