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     ブラジルの日本移民  (最終更新日 : 2024/05/01)
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生田勇治さん (2023/12/19)
2015年4月号生田勇治さん.jpg
 アマゾニア日伯援護協会で約40年間にわたって形成外科医として活動する生田勇治(いくた・ゆうじ)さん(68、山形)。(2015年)現在、同援協の監事長を務めるとともに、パラー州日系団体の連合体である汎アマゾニア日伯協会の会長も歴任し、自他ともに認める同地日系社会のリーダーだ。
 日系社会のみならず、医者として広くブラジル社会への貢献を行う生田さんは、専門の形成外科医の仕事も超多忙だ。手先の器用さと細かい技術が求められる形成外科医だが、生田さんの技術は約60年前に家族と「ゴム移民」としてベルテーラのゴム園に入った時から発揮されていた。
 1954年1月下旬、当時7歳だった生田さんは、両親、姉3人と弟妹の計8人で渡伯し、パラー州ベルテーラのゴム園に入植した。一般的に、ゴムを切るためのテストを受けられるのは大人だけなのだが、監督官の前で実際にゴムを切って見せ、大人顔負けのゴム切り師として数年活動した経験を持つ。
 その後、生田家族は父親の判断でサンタレンに転住。同地で食堂を開けるとともに、周辺の農場でトマト、キャベツなどの野菜類の生産も行った。生田さんはサンタレンで改めて小学校に入学し、2年間で単位を修得した。61年、14歳になった時、奨学資金試験を受けて合格。地元のエリートたちが通う有名私立学校で、中学・高校一貫の男子校「ドン・アマンド」に入学することができた。
 同校では数学や物理などは最高点を取ることができたが、ポルトガル語に関しては小学校を終わった時から、「日本人なまりのポルトガル語が自分でも気になっていた」という。意識してラテン語から勉強し、学生活動の中でのスピーチや弁論大会にも積極的に参加。中学から高校に上がった時に、将来的に福祉関係の仕事に就きたいと思い始めたそうだ。
 当時、生田さんはSEASと呼ばれた学生の福祉団体にも参加し、ブラジル政府から教材を提供してもらって簡易トイレの作り方をブラジル人に教えたり、結核患者の宿舎を造るなどの活動もしていた。父親の勇(いさむ)さんが戦中は衛生兵であったことや、母親も看護婦だったことが影響したという。
 「父がペニシリン(抗生物質)の注射を打ったり、整体をしたりしているのを実際に自分の目で見ていたこともありますし、子供のころに弟がマラリアに罹って巡回診療で細江静男(ほそえ・しずお)医師や今田求(こんだ・もとむ)医師に看てもらったこともあります」と生田さんは、幼い時からの周りの環境が自分の将来に大きく影響したようだ。
 高校を卒業後、1968年1月にベレン市にあるパラー国立医科大学の試験を受けて、一発で合格。日伯協会の学生寮に入り、昼は大学で勉強し、夜は地元の中学・高校の夜学で各科目を教えるなどしてアルバイトをした。
 大学で6年間勉強し、74年に卒業した生田さんは、アマゾニア日伯援護協会で活動していた伊東澄男(いとう・すみお)氏、池田ミキヒコ氏、越知(おち)エンリケ氏の3人の日系医師の看護師の仕事を受け持ち、入院患者の記録を取ったり、下積みしながら貴重な体験をしてきた。
 「特に麻酔科だった池田先生には技術をたたき込まれた」と振り返る生田さん。当時、池田氏は外科のトップで、生田さんにとって最も頼れる医師だった。その間、70年代半ばから国費留学で日本に研修に行き、名門の慶応大学医学部には90年代までに3回にわたって世話になり、技術を学んだ経験もある。
 巡回診療も68年から現在までの約半世紀にわたって継続している生田さんは、今でもサンタレン、モンテ・アレグレ、アカラーなどに出向く。「以前は、マナウス、キナリー、ボア・ビスタなども行っていました」とし、医師としての責務を果たしてきた。
 巡回診療の必要性について生田さんは、「日本人1世の高齢者には、自分の国の言葉で聞いてもらうことが大切です。健康というのは、肉体的、精神的、社会的にも大切で、単に巡回に行って治療するだけでなく、予防衛生の必要性を指導するためには日本語で聞くことが重要です」と強調する。
 一方、現在のアマゾニア日伯援護協会について、「日本文化の良いところを出しながら、ブラジルの良い面もミックスしてやっている」と語る生田さん。同協会傘下のアマゾニア病院は9割以上が非日系人が対象で、今年(2015年)1月末に創立50周年を記念して整備・落成された「神内良一(じんない・りょういち)病棟」の施設充実に伴い、「日系人だけでなく、地域住民への福祉に貢献できれば」との思いを持っている。(2015年4月号掲載)


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松本浩治 :  
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