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     ブラジルの日本移民  (最終更新日 : 2024/05/01)
徳吉義男さん [画像を表示]

徳吉義男さん (2024/04/02)
2016年6月号徳吉義男さん.JPG
 「自分の人生に運がありましたね。ブラジルまで来てセナという人物に知り合い、家族ぐるみで付き合えるとは」―。こう語るのは、「音速の貴公子」などの異名を取り、1994年のイモラ・サーキット(イタリア)で事故死したサンパウロ出身の世界的F1レーサーだったアイルトン・セナと親友関係にあった、コチア青年1次6回生の徳吉義男(とくよし・よしお)さん(79)。徳吉さんが借りていたサンパウロ州タツイ市近郊の土地をセナが購入し、その世話をしたことが大きなきっかけだ。
 徳吉さんは鹿児島県姶良(あいら)郡のタバコ生産農家に長男として生まれ、中学生時代から作業を手伝わされたという。
 「とにかく、外に出たかった」という徳吉さんは、元々は季節移民としてアメリカにいくつもりだった。しかし、同じ地域の出身者がアメリカで失敗したことを聞きおよび、また同時期に鹿児島に一時帰国していた戦前移民の中州矢吉(なかす・やきち)さんから「ブラジルに行かないか」と誘われたことがきっかけとなり、渡伯することを決めた。当時19歳だった徳吉さんは、従兄弟の平原益雄(ひらはら・ますお)さん、正男(まさお)さんと3人一緒に「ルイス号」で海を渡り、1956年11月7日にサントス港に到着した。
 サンパウロ州イタペチニンガとソロカバの間にあるサラプイーという場所にいたパトロン・住川行人(すみかわ・ゆきひと)氏(故人、広島県出身)の農場に配耕。バタタ(ジャガイモ)、トウモロコシを中心に生産していたが、4年間の義務農年を終えた後はコチア産業組合からの融資を受けて独立した。タツイに移り住み、その頃には珍しい果樹のポンカンを生産して注目されたこともあったという。
 62年には美津江(みつえ)夫人(76)と結婚。その2年後には大型カミヨン、トラクターなども買い揃え、すでに30人の従業員を雇っていた。その後もブラジル銀行の融資を受けて順調に農業生産を続け、74年には74アルケール(約180ヘクタール)の土地を購入。バタタを中心に米、フェイジョン、トウモロコシ、大豆などの穀物類を生産していた。
 85年から主要作物をバタタからトウモロコシに変換。88年にはタツイの別の場所に80アルケール(約200ヘクタール)の土地を借りたことが、セナと出会うきっかけとなった。その借地をセナが購入。徳吉さんは、当時はまだあまり名前が知られていないレーサーのセナのため、同地に飛行場から池、鶏舎づくりや運搬作業など何でも積極的に手伝った。日本人が好きだったセナも徳吉さんと気が合い、一緒に食事をしたり、家族ぐるみの付き合いが始まった。
 ある時、徳吉さん所有のトウモロコシ畑100アルケール(約240ヘクタール)のうち、約半分が降霜の影響で損害を受けたことがあった。その際、セナが資金援助をしてくれた。翌年になって徳吉さんが援助してもらった分を返金しようとしたところ、セナは「これまで自分たちを手助けしてくれたのだから」と金を受け取らなかったという。
 その後、「ミーリョ・ベルデ(トウモロコシ)」の「カンピオン」種を植え、1カ月にカミヨン150台分の生産物をサンパウロのセアザ(サンパウロ州食糧配給センター)に送っていたという徳吉さんは、「ミーリョ・ベルデ」生産でその名前を馳せることになった。同時期に、F1レーサーだったセナは、世界のカンピオン(チャンピオン)として君臨。職業は違えど、同じカンピオンとして2人の絆はさらに増したようだ。
 「セナは人間的にとても優しい人間だった。(94年に事故死した時は)やはり悲しかったね。ああいう人間が亡くなるとは、タツイ市にとっても大きな損害だったと思う。日本人が好きで、日本のことをよく話していたよ」と徳吉さんは生前のセナとの思い出を振り返る。
 現在、「ミーリョ・ベルデ」など畑の管理は主に長男に任せているという徳吉さんだが、新品種については常に自身で研究しているという。
 中学時代から新聞配達のアルバイトの合間に、日本の新聞社の地方記者からの依頼でカメラを借りて写真を撮っていたことがあるという徳吉さん。ブラジルに来る時もカメラを持参し、以来、長年にわたって趣味の写真を撮り続けている。現在もコチア青年の集まりなどで参加者たちの写真を撮影し、喜ばれている。「今もコチア青年のつながりがあり、それが一番の楽しみだね」と徳吉さんは充実した表情を見せていた。(2016年6月号掲載)


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松本浩治 :  
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