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     ブラジルの日本移民  (最終更新日 : 2024/05/01)
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高松浩二さん (2024/04/08)
2016年7月号高松浩二さん.JPG
 ブラジル和道流空手道連盟の範士師範9段で、85歳になった現在も後進に空手の指導を継続している高松浩二(たかまつ・こうじ)さん。今年(2016年)、渡伯と同流派をブラジルで広めて60周年の節目の年に当たり、9月に記念イベントも予定されている。現在は息子の高松浩(ひろし)セルジオさん(50、2世、教士師範7段)が道場を引き継いで経営しているが、実直な人柄である高松父子を慕っている門下生は全伯各地に数多くいる。
 高松さんは、1930年12月に4人兄姉の末っ子(3男)として兵庫県で生まれた。父親は、地元で代々続いた味噌や麹(こうじ)などを作る食品加工業に携わり、300年に及ぶ伝統があったという。
 高松さんは17歳のころから近所の空手道場に入門し、先輩に誘われて戦後間もない48年に東京農業大学に入学した。当時は旧制大学を3年、新制になってから2年と計5年間通い、大学でも空手部に入部。先輩たちから稽古でしごかれる毎日だったという。
 卒業した時点で既に和道流空手道の5段を取得していた高松さんは、空手の師匠から「アメリカに行く武道使節団があるので行かないか」と誘われたが、言葉の壁があったことを理由に断った。その一方で、ブラジルに行くことが決まり、師匠から「お前の名前で3段まで認めてよいから、仕事の合間に和道流を普及してくれ」と言われた。
 56年2月17日、25歳の時に単身ブラジルに渡った高松さんは、サンパウロ市ピニェイロス区にあったコチア産業組合の販売部で農業技師として1年間働いた。しかし、「最低給料で賃金も安く、農業技師と言ってもまともには使ってくれませんでしたよ」と当時を振り返る。
 そのころ、ブラジルでは柔道場はあったものの正式な空手道場はまだなく、各地での柔道大会の合間に「空手を見せてやってくれ」と言われてデモンストレーションを行ったりしていた。ある時、バイア州に住む早稲田大学出身の日本人の友人から「1人で居るのは寂しいから、こちらに来てくれ」との連絡があり、サルバドールから約100キロの距離にあるフェイラ・デ・サンタナという場所の農場に行くことになった。野菜作りなどをしたことがなかった高松さんだが、見様見真似でピーマン、オクラ、ナスビなどを植えて販売したが、ほとんど売れなかったそうだ。
 そうした生活の中で、地元のテニスクラブで護身術として空手を教えることになったほか、都会のサルバドール市でフェスタなどが開催される際にデモンストレーションで空手を披露して人気を博した。
 しかし、2年間雨が降らない状況で、「こんな所におっても仕方がない」とサンパウロに戻ることに。友人のつてを頼って「マウア産業組合」に入り、手探りの状態で営農指導を行うことになった。その後、サンパウロ州ピエダーデ市出身の日系2世である春江さん(75)と結婚し、11年間、同組合で働いた。
 68年、カステロ・ブランコ街道が開通して間もないころ、組合関係者2人と高松さん3人を乗せた車がサンパウロ州ボツカツに行く途中、交通事故に遭遇。後部座席に乗っていた高松さん以外の2人が死亡するという不幸に見舞われた。唯一命拾いした高松さんだが、治療などを兼ねて70年に日本に帰国した。
 日本で家族との新たな生活が始まったが、夫人の春江さんが日本の生活に馴染まなかったこともあり、74年に高松さんは建築会社の駐在員という名目でブラジルに再渡航した。そのころには空手の道場も増え、空手道連盟も創設されていた。
 また、ブラジルブームで日本からの観光客や企業駐在員も多かった。高松さんの長兄が兵庫県加古川市の市会議員や兵庫県会議員として活動していたこともあり、パラナ州マリンガ市との姉妹提携事業などで長兄も何度かブラジルを訪れていたという。
 その後、高松さんは現在のサンパウロ市アルト・ダ・ラッパ区に和道流空手道場を開設。率先して空手指導普及に力を入れるようになった。現在は息子のセルジオさんが空手道場を引き継ぎ、サンパウロをはじめ、パラナ、サンタ・カタリーナ、リオ・グランデ・ド・スル、南マット・グロッソ、ミナス・ジェライス各州約60都市に4000~5000人の門下生がおり、セルジオさんが中心に各地での指導に飛び回っている。
 高松さん自身も月1回の黒帯講習会には率先して参加しており、「基本を大切にすること」に重点を置いて現在も指導稽古を行っている。
 「アホの一つ覚えみたいに空手をやってきましたけど、真面目にやってきたから皆がアジューダ(協力)してくれる。各地で生徒が待っていてくれる。それだけでも本当にありがたいことです」と高松さんは充実した笑顔を見せていた。(2016年7月号掲載)


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松本浩治 :  
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