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紺谷君の伯剌西爾ぶらぶら
     エッセイや翻訳記事  (最終更新日 : 2005/06/26)
これぞ、ブラジル人!

これぞ、ブラジル人! (2004/04/02)  仕事を得るために上院議会に侵入、身投げすると叫び240レアル(約1万円)を獲得したが……、帰りに強盗に襲われ、もとのもくあみ。

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「身投げするぞ!」と叫ぶ男
【Veja誌 2004年3月24日号】3月16日、首都ブラジリアの上院議会2階にある傍聴席から、男が身を乗り出して、「身投げするぞ!」と叫んだ。上院議員がひしめいている議会ホールでは、皆びっくり。何が起ったのか見上げた。2階席の高さは約6メートル、落ちればただではすまない。
 幸い、男は警備員に取り押さえられ、議員たちの前に連れてこられた。男は、バイア州出身(※)でブラジリア市近郊に住むエジバウド・デ・リマ・アラウージョさん(35)、職を得たいがための強硬手段だった。
 エジバウドさんは、上流階級出身の議員たちを相手に涙ながらに訴えた。
「仕事がないのです」
(1千万人のブラジル国民は失業中)
「飢えているんです」
(国民の3千万人は飢えている)
「生活保護の120レアル(約5千円)だけでは、女房と幼い子供たちを養っていけないのです」
(百万家族が月々120レアルで生活)
「2年間もまともな仕事に就けないのです」
(4千百万人の労働者は正式登録(※)されていない)
「小学校も卒業できなかったのです」
(25才以上のブラジル人29%が、小学校を卒業していない)
 議員たちは、男の訴えにショックを受けた。
 エジバウドさんは、医者の診断を受けさせられ、一杯のグレープジュースを飲んだ後、議員たちからプレゼントを貰った。5人の議員たちが1人50レアルずつカンパしてくれたのだ。5人のうち1人だけは、40レアルしか出さなかったのだが、この議員は上院議長で元大統領のジョゼー・サルネイ氏(※)。エジバウドさんは合計240レアルを受け取ると同時に、サルネイ議長から仕事も紹介してもらえることになった。
――3日後、エジバウドさんは相変わらず失業中。カンパしてもらった240レアルもないと言う。
「家に帰る途中、3人組の強盗に遭って……」
(統計数字に出来ないほど頻繁にある強盗事件)
 これぞ、ブラジル人! エジバウドさん。





※バイア州出身者
 ブラジル東北部バイア州生まれの人で、貧乏人の代名詞にされている。度重なる旱魃の被害で、農業従事者は都市部に出稼ぎに行くが、義務教育すら受けていない人が多いため仕事がない。

※正式登録
 労働者として正式登録することで、権利が守られる。会社側は正式登録することを義務付けられているが、保険などの余分な経費がかかるため無登録で労働者を雇う場合もある。

※ジョゼー・サルネイ氏
 1985年から1990年まで大統領を務めた。85年3月、タンクレード・ネーヴェス大統領が就任直後に急死したため、サルネイ氏は、副大統領から昇格した。「国民選挙なしに選出され、国民にもっとも人気のなかった大統領」とも揶揄されている。現在、上院議員議長。


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