引き裂かれた永住査証 ① (2005/04/24)
サンパウロ市ラッパ区にある連邦警察の1フロアーには、外国人がひしめいていた。ペルー人やボリビア人、韓国人、それにアフリア諸国などから入国している人々。まさにその場所は、ブラジルの現状を象徴していた――
「ミツヒコ コンタニ」 「あなたの書類は受け付けられません。別な必要書類を揃えて提出して下さい」 連邦警察のカウンターで、唖然とした。警察職員の説明では、私の提出した永住査証再更新のための書類は、一般農業者用のもので、私の査証は起業者のためのものだというのだ。 「そんな、バカな。私は農場査証を申請しているはずだ」 そう抵抗してみたが、身分証明書に記されている番号(写真下)NR35 12/12/94 do CNI/MTB は起業者用の査証であり、農業ビザではないという。実際に起業していないので、連邦警察が求める書類を提出するのは不可能である。
「最初に、身分証明書を取得したとき、なぜそのことを申し出なかったのか?」 職員は反問するが、そんな小さな番号を素人の私が分かるわけがないじゃないか。 とにかく、押し問答の結果、「では、とりあえず永住査証を押してある以前のパスポートを持って来い」というところまでこぎ着けた。
ブラジル在住外国人は、身分証明書を取得しなければならず、そこに査証の種類が書かれてあると同時に有効期限が記されている。観光ビザや労働ビザなどの一般査証に有効期限があるのは分かるが、永住査証なのに有効期限が明記されることになり、そのこと自体不思議なのだが……。このため、ブラジルの外国人移住者はすべて、有効期限内に再更新の手続きを行なわなければならない。大体10年に一度といった割合で更新する。さらに、不定期に一斉更新という場合もあり、95年に身分証明書を新しいカード型にするといった理由で外国人全員が更新させられている。また、永住権をもった外国人が海外にいる場合は、2年に1度の割合でブラジルに来なければ失効してしまう。こうした更新は、外国人を管理すると共に、連邦警察の貴重な収入源となっているとも噂されている。
自宅に戻った私は、以前のパスポートを引き出しの中からほじくり出した。そのパスポートに押してある査証は、間違いなく一般農業ビザ(写真左)だった。
私は、書類代行業を営み「ビザ博士」とも呼ばれているTさんに連絡、詳しい事情を調べてもらうことにした。ブラジルの役所は、担当者によって言うことが違うので、信用できないからだ。役人は知らないことを「知らない」とは言わない奇妙なプライドを持っているせいであろう。 Tさんは仕事で毎日のように連邦警察に出向き、現場の職員たちとも顔なじみだ。誰が詳しくて誰がハッタリ野郎かも熟知している。だからこそ、Tさんに頼んだのだ。私は農業者用の永住査証を押してあるパスポートを手渡した。 身分証明書の査証種類が起業ビザとなっているのはなぜか。どうすれば更新できるのか。
Tさんが調べてきたところによると、身分証明書が間違っていることを証明しなければならないというのだ。そのためには、10年前当時の書類をすべて揃えて、ブラジリアの連邦本部に持っていかなければならない。 どこかで、誰かが間違えたのだが、役所は「自分が間違えた」と絶対に言わない。提出書類が悪いとか、労働省からきた書類が間違っていたとか、別の部署に行けだとか、役所の必殺ワザ「たらい回し攻撃」を受けることは間違いないという。 もうすでに「ブラジリア本部へ行け」と簡単に言ってくれるが、ブラジリアまで約1000キロ、飛行機で2時間という距離だ。 「金と時間がかかるだろう。腕のいい弁護士に依頼するか、また強力な政治家に頼めばなんとかなるかもしれない」 Tさんは、そう説明した。
もう一つ、悪いことに、現在、外国人はすべて連邦警察のコンピューターに登録されており、名前さえ入力すれば、すべてのデータが見られる仕組みになっている。このデータに私の以前の勤務先が入力されていた。農業査証で取得しているのに、最初から農業を営んでいないことが判明している。農業査証の場合、原則的には、最初の数年間は農業に従事しなければならない。ほとんど形骸化された条項であるが、もし裁判などになった場合、不利にはたらくことは間違いないという。
もう少しで不法滞在者となってしまう。 さあ、ピンチ! あなたならどうする。(つづく)
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