2 東山農場 (2004/06/06)
数日前に連絡が入った。 5月24日(月)午前3時半集合。 えっ! そんな時間に……、とりあえず「行きます」と明るく返事したものの、タクシーで集合場所まで行くと日当がなくなってしまうではないか! そう思っていた。 さすがに集合時間が変更され、前日の夜ということになった。 午後11時に市内に集合。チャーター・バスが来ていた。バスには、サンパウロで登録した20代から70代ぐらいまでの男女11人が集まっていた。その中に、友人のアライちゃん(フリーのプログラマーで年齢も僕と同じぐらい)もいた。やはり、数少ない壮年の暇な男という理由で選出されたのだろう。なんとなく気恥ずかしく、互いに「おう」と首を突き出しながら言葉を交わした。
撮影場所のカンピ-ナス市東山農場に到着したのが深夜1時頃。この東山農場とは三菱の岩崎家が昭和2年に創設した由緒ある農場である。その農場内一角に仮設事務所や待合所用のテントが設置されており、そこで待機する。しばらくすると、カンピーナス市からバスが3台、それに別のエージェントが連れてきた非日系人エキストラのグループのバス2台で、エキストラが合計100人ほど集まった。 バスをチャーターするのに1台1千レアルとして、6台で6千レアル。エキストラ1人が日当80レアル、それにメイクとか衣装・通訳などの現地スタッフが十数人いる。現レートでは270レアルが1万円ほどだ。いったい、いくら金を使っているのか、どうしても気になってしまう。 その後、5人ずつ呼ばれて、衣装合わせ。ピチピチのランニングシャツ、それに麻シャツとズボン、豚皮のブーツ、麦藁帽子というスタイルだ。そして、その衣装に泥をつける。さらにメイク、指先や顔にドーランを塗って黒くされた。100人ものエキストラが、衣装を着たりメイクをしたりする。時間はどんどん過ぎていった。 全員の準備が整うと、日本人スタッフが100人を集め「10の注意事項を話します」という。 (それは無理だろう) ブラジル在住歴10年以上の僕とアライちゃんは、思わず顔を見合わせた。もとより忍耐力のないブラジル人、せいぜい注意事項は3つが限度だ。それに、日本語で話し、ポルトガル語にも通訳、時間も倍かかる。 思った通り、10の注意事項に入る前の「エキストラとしての心得」当りですでに、ザワめき始めた。 「一つ、カメラに視線を向けるな、うんぬんうんぬん……」、「二つ、演技は自然に……」、「三つ、……」 三つ目の途中で非日系人グループはいなくなった。五つ目あたりで日系人エキストラも瞼を閉じていた。最後までちゃんと聞いていたのは、僕とアライちゃん、日本生まれの年配の一世だけだったろう。 何時の間にか、外は薄ら明るくなっている。 撮影は、農民たちが明け方にコーヒー農園に向かうシーンだ。
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