3 僕の構成家族 (2004/06/06)
さて、このドラマのエキストラにはある種の格付けがあり、「レギュラー・エキストラ」というのがある。なんかガソリンの名称のようだが、そうではない。これは、隣の家族や店の親父など、台詞はないが毎回出演するエキストラのことだ。「鈴木ファミリー」「佐藤ファミリー」などと名前がつけられており、カンピーナス在住の日系人ら30人が選ばれている。 この「レギュラー・エキストラ」に対して、僕とアライちゃんは「準レギュラー・エキストラ」という感じだろう。今回の撮影では、ただコーヒー農園へ向かうシーンだけなのだが、「移民は家族単位で歩いていく」というディテールにこだわっており、新たな25人が5つの家族に分けられた。家族に名前はなく1番から5番までの番号が付けられ、僕は「ファミリー2」の構成員となり、アライちゃんは「ファミリー1」に配属された。 この家族は、集まった25人をスタッフが外見だけで判断して決めていった。僕にはどんな妻が選ばれるか、密かにドキドキしていた。 「はい、彼女とあなた」 そう言ってペアーにされたのだが、「ムムッ」と思った。 この「ムムッ」は、「彼女は老け過ぎている。僕にはもっと若い女性が似合うはず」という心の叫びである。 きっと向こうも僕を見て「ムムッ」と思ったに違いない。 文句も言えず、釈然としないまま愛想笑いしていると、次にスタッフは20才前後の娘さんを引っ張ってきて、 「君たち夫妻の娘ね! オー、似合っている」 と満足げに声を挙げている。 その上、「この夫婦の両親ね!」 お祖父さんとお祖母さんを連れてきた。お祖父さん、お祖母さんたちもやはり「ムムッ」という複雑な表情を見せていた。 「とにかく、『ファミリー2』が結成されたのだから、仲良くやっていきましょう」 年配のお祖父さんが、ギスギスした雰囲気をなんとかまとめてくれた。
そういえば、昔の日本人移民は「構成家族」というものを作って移民船に乗りこむケースも多かったという。ブラジル側は移民を導入するにあたり、家族単位での労働力を欲しがったため、親類や隣人などが便宜上の家族となって移住したのだ。 我々の場合は役柄でほんの一瞬のことに過ぎないのだが、やはり本物の構成家族も「ムムッ」を感じたに違いない。 さあ、これから本番だ。撮影場所へ移動するために「構成家族」が揃ってバスに乗りこんだ。
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