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岡村淳のオフレコ日記
     岡村淳アーカイヴス  (最終更新日 : 2017/05/11)
緊急報告 NHK「ハルとナツ」の疑惑(1)

緊急報告 NHK「ハルとナツ」の疑惑(1) (2007/01/21) 2005年10月にNHKが放送八十年記念ドラマとして鳴り物入りで宣伝した「ハルとナツ」。
NHKの番組スタッフがこのドラマの制作にあたって、岡村が構成・撮影・編集・報告を担当したドキュメンタリー「60年目の東京物語 ブラジル移民女性の里帰り」(東京メトロポリタンテレビにて1996年放送)を「参考試写」したことが明らかにされています。
岡村の作品を知る日本とブラジルのマスコミ関係者が「ハルとナツ」の基本設定が岡村作品のパクリであると告発し、それを受けて私はNHK橋本元一会長宛に同年9月と10月、2度にわたって質問状を送付しました。

この問題が日本のマスコミに発表されると、NHKは岡村作品との類似は「まったく」ない、と公式回答しました。
いっぽう「ハルとナツ」の原作者とされる橋田須賀子氏は、この問題についてマスコミの取材にも応じていません。
岡村の最初の質問状に対して同番組担当の金澤宏次制作統括者より回答になっていない回答があり、その点も具体的に指摘した2度目の質問に対してNHK側は、ひたすら沈黙を続けています。

番組の公開上映のためにブラジルに来たNHK担当者はブラジル邦字紙記者のこの問題についての質問に、ノーコメントを貫きました。
以降、日本および海外の視聴者からのこの問題についての質問や抗議、この問題の調査希望に対してNHKはまったく応じていないことが伝えられています。

残念ながら、これが日本を代表する公共放送局のあり方です。
NHKが番組制作上の基本的なモラルを欠き、外部の批判に応じる自浄機能を持たない以上、いずれさらに劣悪な問題を起こすことが予想されます。

フリーランス、個人、移民といった大メディア側が利用する以外の価値を認めない弱者の尊厳を守り、同様の事件を防ぐためにも真相が隠蔽されて歪められたままのこの問題にこだわり続ける所存です。

この問題を考える資料として、事件当初、岡村がブラジルからも日本からも誹謗中傷にさらされていた頃に、「ドキュメンタリー映画の最前線マガジン neoneo」に2回にわたって連載した記事を同誌の了解をいただき、転載いたします。

緊急報告 NHK「ハルとナツ」の疑惑(1)

「パクれるもんならパクってみろ、の思いです。」
東京メトロポリタンTV(以下、MXと略)編成部からの問い合わせに、私はこうメールで答えた。2003年始めのことである。
NHKエンタープライズから、私がMXで放送したドキュメンタリー2作品の試写用テープ提供の依頼があったという。『60年目の東京物語 ブラジル移民女性の里帰り』と『大東亜戦争は日本が勝った!ブラジル最後の勝ち組老人』(いずれも1996年放送)の2本だ。どちらも当時のMXの目玉番組だった「映像記者報告」(40分番組)で放送されている。映像記者やビデオジャーナリストと呼ばれる作り手が、小型ビデオカメラを用いて構成・撮影・編集・報告などをすべてひとりで行なう手法が当時、話題を呼んだ。

もとは日本映像記録センターの牛山純一門下として、TVドキュメンタリーのディレクターの道を歩んでいた私だが、南米ブラジルの取材が続いたことからフリーとなり、自らブラジル移民となってしまった。そんな私が開眼して、天職と定めたのが、ひとり取材によるドキュメンタリー作りだ。テーマは次第にブラジル移民に絞られていった。

『60年目の東京物語』は80歳になるブラジル移民女性が、60年ぶりに祖国を訪ねる旅に同行する、というもの。私自身が旅の段取りをしながら、生き別れになって音信の途絶えていた姉を訪ねるなど、日本各地の旅を時には宿も同室で取材している。主人公の女性の絶妙なキャラクター、そして取材者である私との距離感など、同様のネタを見つけても、そうここまではいけないだろう、という自負のある作品だ。

『大東亜戦争は日本が勝った!』はブラジル奥地でなおも日本が戦争に勝ったと信じる老人との、6年にわたる交流の記録である。私の発表後、概要を知り、私の作品を見たいとも言わずに「ヨーロッパで賞狙いの映画を作りたいから」老人を紹介しろなどという申し出もあったが、敬遠しているうちに当の老人が亡くなってしまった。今も生き続け、信じ続ける勝ち組老人を他にも探せるものなら探してみな、という思いが私にはある。

すでにNHKエンプラにはひどい目に遭わされている。1996年、私は『花を求めて60年ブラジルに渡った植物学者』という作品をCS放送局・朝日ニュースターの「ビデオ・アイ」という番組で放送した。当時、83歳だった移民植物学者・橋本梧郎先生の歩みと今を記録したドキュメンタリーだ。この作品を見たNHKエンプラのスタッフが翌年、橋本先生をNHK「にんげんドキュメント」で取り上げようと乗り込んできたのだ。図らずも貴重な「参考作品」を提供することになった私には、何の挨拶もない。これだけなら、よくありがちな話だ。問題は、取材時に担当ディレクター(現・NHK地方局職員)が橋本先生のもとからかけがえのない資料を持ち出し、その後の請求にもかかわらず、返却を拒み続けていたことだ。しかもこの担当者は持ち出し資料を外部に横流ししている疑いが濃厚となった。橋本先生のもとから「NHKの信用」で借り出しており、借用書の一つも残していない。放っておけば当人が死んでうやむやになるだろう、というのが見え見えである。その後も橋本先生の記録を自主制作で続ける私は、先生からNHKのデタラメさを再三こぼされていた。しかし橋本先生の取巻きの人たちを差し置いて、大NHKの同業者を無名の移民作家である私が告発するのもなにやら気が引け、いっぽう私の作品がなければこの事件も生じなかっただろうという責任も感じて、機会さえあれば先生がご存命のうちに祖国のジャーナリズムにでも訴えようと考えていた。

そんなNHKエンプラからの岡村作品試写要求である。番組そのものの著作権はMXにあるから私が拒める筋合いではなく、丁寧な連絡をしてきたMXには敬意を表するべきである。連中の目的は何か?てっきりブラジル移民のドキュメンタリーと考えていたのだが…
NHKの狙いは、ブラジル移民をテーマにした放送80周年記念の超大作ドラマだったのである。
その後、半年あまりが経ち、NHKの製作発表の報が伝えられた。『ハルとナツ 届かなかった手紙』。発表されたドラマの粗筋は、こうだ。

1. 日本の姉妹がブラジル移住をめぐって離れ離れとなる
2. その後、通信の混乱から二人の音信が途絶える
3. 半世紀以上経って、ブラジルに渡った側が、日本に残った女性を訪ねる

以上の3点とも、私の「60年目の東京物語」そのものだ。「やられた!」のひと言である。

その年、私は日本で、私のシンパであり、ブラジル通で知られるNHK職員と会う機会があった。この話を告げると、彼も合点がいくと言う。彼のところにも「ブラジル移民を題材としたドラマを企画中」というエンプラのスタッフから接触があり、彼は私が彼に提供していた複数の岡村作品のビデオテープを貸し、特に『60年目の東京物語』を勧めたという。
「そのうち、岡村さんに挨拶があるんじゃないですか?」と彼の言。
その年の内にロケハンチームがブラジル訪問、翌年には大ロケ隊がやってきた。しかしドラマの完成に至っても、私には何の挨拶もなかった。
今年9月、私はNHK会長宛に『60年目の東京物語』と『ハルとナツ』の根幹部分が酷似することについて質問状を送った。NHK側は事前にドラマのプロデューサーが『60年目の東京物語』を参考試写していることは認めた。これはMX側に記録があるのでもみ消しようがない。しかし「表現や内容面で」「重なる面はまったくないと判断しました。」と公式発表をした。
この件を日本のマスコミが知るところとなった。私のもとに多くのメールが届くようになった。大半が私への応援だが、誹謗中傷も少なくない。「NHKの金が欲しいのか」「売名野郎」等々。そして日本のブラジル関係者、ブラジルの日系社会からは「せっかくNHKがブラジル移民を取り上げてくれたのに、ケチをつけるとは何事か。先人に申し訳ないと思わないのか」等々。私の主張を知ろうともせず、もちろん私の作品を知らない上での断罪である。
今も私ひとりの闘いは続いている。おかげさまでひとり取材ばかりで、ひとりの闘いには慣れている。(続く)
(「neoneo」 2005年10月15日 第45号にて発表)


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