【岡村淳『富山妙子 炭坑に祈る』】by アサノ タカオ (2021/12/29)
在日本の物書きにして編集者のアサノ タカオさんがFacebook 2021年12月28日付に発表した、拙作へのレビューを紹介します。
【岡村淳『富山妙子 炭坑に祈る』】
目が割れる、ということばがふと思い浮かんだ。見るという経験が真っ二つに割れて、ま新しい道が開かれる。特別な機会をいただき、在ブラジルの記録映像作家・岡村淳監督の短編『富山妙子 炭坑に祈る』(2020)の映像データを昨晩深夜に自宅で拝見し、あまりのすばらしさにモニターの前で打ち震えた。 『富山妙子 炭坑に祈る』は、岡村監督自身が常に意識しているであろう写真家セバスチャン・サルガドの大著『WORKERS』の対蹠地をなす映像作品と直感した。サルガドの写真群が人間の労働の風景から荘厳なる祈りのマクロコスモスを押し開くとしたら、本作はミクロコスモスへと収斂していくベクトルを持つ。 荘厳なるものの対極にある簡素なイメージに、しかしサルガド作品に感じるのと同じ深い祈りが込められているのだ。 炭坑労働をテーマとする画家・富山妙子の素描の細部、スケッチ帳に記された文字を含む線の動きや震えにまで官能的に肉迫する岡村さんの「まなざし」を借りて、特定の時代と場所に生きたはずの坑夫たちの残像が、自分の中で何か普遍的な聖なるもののイメージへ次々に変容していくのを感じて、興奮した。 杭を担ぐある坑夫の素描が「十字架の道行き」に見えたのだ。興味本位の連想ではない。岡村さんは長年ブラジルで社会的弱者のために奉仕するキリスト者を記録しており、岡村さん本人からご教示頂いたのだが、当地のカトリック教会堂内に飾られた「十字架の道行き」図も作品の霊感源になっているという。 これまで岡村作品をドキュメンタリーの範疇で理解してきたが、本作はそれを越える「記録映像詩」という新ジャンルの試み。最後のクレジットで「構成・撮影・編集 岡村淳」のキャプションが添えられた人物スケッチにも驚愕。音楽は高橋悠治さん演奏のピアノ曲、サティ「ジムノペディ」。すごい作品です。
|