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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2013年の日記  (最終更新日 : 2013/12/06)
8月の日記 総集編 「反逆の見習い修道女」

8月の日記 総集編 「反逆の見習い修道女」 (2013/08/03) 8月1日(木)の記 百客千来
ブラジルにて


いやはや重なる時は重なるものだ。
千客万来とまではいかないので、その十分の一ぐらいにしておく。

夜は、家族が案内している日本からの来客を近くの大衆シュラスカリア(ブラジル式バーベキュー店)にお連れする。
日中は面識のないフランス人から電話があり、最初はポルトガル語で、のちに日本語で会話。
今はサンパウロにいて、ドキュメンタリー映画を作っているのだが「勝ち組」のことでぜひ会って話が聞きたいという。
僕は第2次大戦後の、しかも日本の生まれで、事件に関係していないし、知ったかぶりしてお話しできるようなことはないと言うが、なかなか、しちこい。
この手には、けっこうトンデモ系がいて、あまりのデタラメさにブロックしたことも何度かある。
うーむ。
明日は別件で出る予定もあるので、それに合わせて会うだけあってみるか。

いやはや目先の作業が進まないよん。


8月2日(金)の記 白バンジロウの夕餉まで
ブラジルにて


グアバというフルーツを初めて知ったのは、日本の高校時代だったか。
パック入りのジュースだったように思うが、決しておいしいものとは思わなかった。

午前中、まずはきのう電話のあった仏人に会う。
日本語もなかなかいけるが、いかんせん「勝ち組」問題の最近の映像と関係者ぐらいの知識のみで、ベースの情報がひととおり欠けていることがわかる。
好漢と見たので、僕なりにわかることはお伝えする。
つい話し込んで、少し遅れて日本のマスコミの支局長と昼食・お話。

夕方からは我が家でヨーロッパから里帰りしたばかりの親類のおもてなし。
シェフはもちろんわたくし。
その際、娘が近郊の農園からもらってきたグアバを割ってみる。
なんと、果肉が白。
妻に聞くと、味は赤グアバと変わらないが、グアバは果肉に白い虫が生息していることがあり、白果肉だとまぎらわしいので避けられがち、とのこと。
フルーツ色の虫をいただいても、そう悪いことはあるまい。
まずはカシャッサを注いでいただく。
悪くない。
カシャッサがなくなり、ラムでいく。
意外と悪くないぞ。

さあ明日も外での会食の予定あり。
本業の遅れは、いつ取り戻すか。


8月3日(土)の記 上野家三部作を読む
ブラジルにて


先の訪日の際、福岡県宗像市のアクスさんで入手した上野家三部作を読了。
未読だった『父を焼く 上野英信と筑豊』(上野朱著・岩波書店)。
かつてサンパウロで故・小井沼國光牧師にお借りして読んだ『キジバトの記』(上野晴子著・海鳥社)を今回は新装版で。
そしてたしか犬養光博先生の福吉伝道所で滞在中に読ませていただいた『蕨の家 上野英信と晴子』(海鳥社)。
稀代の記録作家・上野英信の、本人が書くことのなかった諸々にヴィジュアルなまでに触れることができた。
生前お会いすることなかった上野英信先生、晴子さん、そしてうかがうことのかなわなかった筑豊文庫が実に身近になった。

さあ、ふたたび上野先生ご自身の著作に向かうのは、なかなかの覚悟がいる。
この三冊に押していただいて、いざ。
とはいえ、その前のビデオ編集と他の作業もあり、ペースがだいぶ落ちそうだけど。


8月4日(日)の記 沖縄風味
ブラジルにて


今日は妻子全員が日中外出。
路上市に行き、すすめられたサワラを買う。

ビデオ編集作業は滞りがちだが、今日は借りてきた本を一気に読むことにする。
さて、昼食。
金曜夜にふるまった沖縄豆腐が残っている。
有機栽培のルッコラとすり鉢で合わせて、パテにしてみる。
チリ産オリーブオイル、アマゾン産コショウ、ブラジル産の薄口醤油、ニンニク、ペッパーソース、さらにライムを絞り込む。
そのままでも悪くないが、パンと一緒に。

夜は子どもが友だちも連れてきた。
夕食も提供せねば。
サワラを半分ぐらい、刺身におろして沖縄風の味噌だれで和えてみる。
味噌・砂糖・みりんに米酢、さらにライムを絞る。
薄切り日本キュウリも一緒に。
周囲を細切り昆布で覆う。
これもよろこばれる。

ブラジル産ラムをコーラで割って、沖縄料理にキューバ・リブレ!
はからずも大・上野英信の『眉屋私記』に味覚から近づいてしまった。


8月5日(月)の記 じっとエジット
ブラジルにて


『ばら ばら の ゆめ』撮影素材チェックを終了。
ビデオ編集機のデータの整理の必要が出てくる。
『消えた炭鉱離職者を追って・序章』のデータのコピーをもう一つ作っておくか。
上野家三部作を読了したこともあり、もう一度、この作品を見直す。
ぎゃ、いままで見逃していたノイズに気付く。
オリジナルまでさかのぼってチェックして、やり直し!

これに日中の半分を注ぐ。
して、『ばら ばら』のイントロを素材チェック中のアイデアに沿ってつないでみる。
ふむ、こんな感じかも。

別に今日は早朝から深夜まで、家族全員で力を合わせて、ひと峠こえる。
そうそう、一日断食もした。
つかれた!


8月6日(火)の記 構成作家
ブラジルにて


今日は『ばら ばら の ゆめ』編集作業に集中できる。
昼に鶏の唐揚げの準備、夕方より揚げる。

『ばら ばら…』はこれまでの拙作とは勝手が違う。
これまでの拙作は余計な構成をせずに、ひたすら時系列でお話を紡いでいくのが基本だったかと。
長期間の取材のものは、だいたいこれでいけてきた。
今回は、先の訪日の際に撮影した素材だけで組立てるつもり。
構成するとなると、組合せは無限にあるわけで、うろたえていた。

案ずるより産むがやすし。
とりあえずは、いい感じでつないでいく。
昨今はナレーション書きも編集と同時進行にしていたが、今回はとりあえず時間がないので、大体の目安だけをつけて、まずはつないでいくことに。


8月7日(水)の記 この季節
ブラジルにて


ビデオ編集作業の合間に、買い物へ。
日本食材店「スキヤキ」店頭にブラジル被爆者平和協会の森田隆さんがいらっしゃる。
さすがは大日本帝国憲兵、かなりの遠距離から岡村の到来を目視して、身構えていらっしゃる。
「またこの季節を迎えて、おつらいこととお見舞い申し上げます」とご挨拶。

日本で原爆文学研究会というのに呼ばれて『リオ フクシマ』ほかを上映してもらうことをお伝えしそびれてしまった。

午後から、編集作業の合間にカレーを製作。
あるいはカレー製作の合間にビデオの編集。

夜は、読みかけで長いブランクのあった伊東乾さんらの『低線量被曝のモラル』(河出書房新社)をふたたび始めから読み直す。


8月8日(木)の記 木曜突発
ブラジルにて


『ばら ばら の ゆめ』の編集に夕方の約束までかかりきりのつもり。
と、先週、取材を受けた日本のメディアの人から拙作の映像を見たいという電話をいただく。
ポータブルDVDデッキ持参で先方のオフィスへ。
一緒に『リオ フクシマ』を見る。
これから横浜ジャック&ベティでの公開用のてづくりパンフレットを作らんとしている時なだけに、その構想をふたたび練る。

夕方からは今晩、空港に向かう友と、別の知人らの出会いも兼ねた会食。
さあ週末にがんばろう。


8月9日(金)の記 ブラジルの懐柔策
ブラジルにて


夜、親子でブラジルでも今日から封切りの映画「パシフィック・リム」(ポルトガル語タイトル「CÍRUCLO DO FOGO」を見に行く。
昨日の新聞報道で、サンパウロではシネコンの一館にて日本人女優主演などのオマージュとして日本語版の上映をするとあり。
今日の各紙での報道では、夜7時の回が日本語吹き替え版とある。
うーむ、吹き替え。
まあ、話のタネに。

金曜夕方である。
急げ、ショッピングモールのチケット売り場へ。
あれ、モニター表示にはない。
日本語吹き替えという特殊バージョンのせいか。
して、英語やポルトガル語の字幕もあるのだろうか。
さあこちらの番。
日本語版の上映はありませんよ、と素っ気ない対応。
なして?
技術上の問題。
いや~ん!

けっきょくより遅い時間の2Dポルトガル語字幕版を鑑賞。
怪獣が「KAIJU」と呼ばれて登場するのはいいが、アクセントが…
そもそも本多猪四郎世代には、この体感ゲーム感覚がついていけず。
最後の最後のクレジットには泣かされたけれども。


8月10日(日)の記 定価未記載
ブラジルにて


木曜日、東洋人街へ出た時に買った。
在ブラジルの日本人の知人が最近、ブラジルで発行した日本語の伝記本。
夕方から、日付が変わっても読み続けて読了。
日本でお世話になった人の関連の記載もあるので、お土産用にも購入するか。
決して安いものではない。
しかも定価が記されていない。

考えてみれば、ブラジルで値段の記載のある印刷物は、新聞に雑誌ぐらいか。
いやはや、なにかとカネがかかる。


8月11日(月)の記 ルネッサンスの朝に
ブラジルにて


そろそろアートのシャワーを浴びたくなっていた。
差し迫る訪日で見逃してしまいそうなアート展へ。
ブラジル銀行文化中心のルネッサンスの巨匠たち展へ。
土日は朝8時オープンの由。
さすがに日曜の朝なら、さほどの列はないだろう。
到着は9時に。
なんといっても無料、そして日本の美術館の監視員どもに爪の垢を煎じたいぐらい、お姉さんが素敵な笑顔で密閉した扉に誘導してくれる。
おう、中にはけっこういるではないか。

3フロアにまたがる展示。
うーむ、ひと言でいうと、なんだか息苦しい感じ。
密閉空間の故だけではない。
大半の画材がキリスト教がらみの故か。
ダ・ヴィンチの絵に気になることがある。

せっかくなのでよりメトロの駅に近いカイシャ文化センターをのぞくことに。
こちらも3フロアにわたる展示。
やはりタダなので、なにか見っけものがあればまことにお得というもの。

Axl Leskoschekという名前の読み方のわからないアーチストの版画展を、まさしく何の予備知識もなく鑑賞。
いや、これには驚いた。
版画で、彫刻刀の彫りだけで、これだけ繊細で豊かなグラデーションが表現できるとは。
人の微妙なしぐさ、表情も。

家に帰ってからは、ここのところの遅れを取り戻すため、家族の留守を活用してビデオ編集にかかる。
そのため、今日見たアートの懸念事項の検索は、後日に。


8月12日(火)の記 ダ・ヴィンチ蝸牛コード
ブラジルにて


今日も断食。
朝から夕方まで、どっぷりとビデオ編集。
階下に新聞を取りにいくのも失念していた。
『ばら ばら の ゆめ』、想定していたより尺が長くなる。
最終的な仕上げのコストがぐんとかかるが、ま、しょうがないか。

合い間にメール作業、そして昨日のアート鑑賞で気になっていたことをネットで調べる。

ブラジル銀行文化センターに展示されていたダ・ヴィンチの作品の邦題は「レダと白鳥」と知る。
おい、ダ・ヴィンチのオリジナルは存在せず、模写が残るのみとあるではないか!
そんなこと展示に書いてあったかな?
少なくとも無料のカタログにはそうした記載はない。
かえって、それで納得。

この絵の右下に、匍匐中とみられるカタツムリが描かれている。
これがいま一つ、リアリティがない。
ヨーロッパには実際にこんな殻のがいるのかもしれないが、触覚もヘン。
そもそも、このカタツムリは背後の岩状のところを匍匐しているのか、あるいはタルコフスキー作品かオカムラの『空中サーカス』のように虚空にあるのかも、僕にはよくわからない。
天才ダ・ヴィンチって、この程度だったのかよと、妙に愕然としていたのだ。
模写なら仕方がない。
モシャモシャしていたものが晴れる。

思わぬ拾い物と書いたAxl Leskoschekはオーストリア人で、一時期ブラジルに滞在していたことを知る。
そもそもこの人の名前、日本語サイトではまるでヒットせず。
いるんだなあ、日本語圏に侵されていない壮大なアーチストが。
うーむ、訪日前にもう一度、鑑賞しにいけるかどうか。


8月13日(水)の記 エンダイブをだいぶいただいて
ブラジルにて


断食明け。
がんがんビデオ編集を進める。
ウオーキングを兼ねて買い物。

冷蔵庫が有機農場からの野菜でぱんぱんである。
青梗菜、エンダイブが多い。
放っておくと前者は黄変し、後者はドロドロになってしまう。
ポルトガル語名エスカローラはエンダイブ、とようやく覚えた感じ。
検索していくと和名はオランダチシャ、江戸時代から日本に入り、もっぱら観賞用だった由。
うーん、これ、鑑賞にそれほど耐えるか?
そもそも苦味が強く、持て余していた。
味噌汁の具にしてみると、家族に不評。
青梗菜はオイスターソースとの相性がよく、ネット検索のレシピでそこそこはける。
さあ明日はエンダイブに再チャレンジだ。


8月14日(木)の記 エンダイブとネットは使いよう
ブラジルにて


来週に迫った次の訪日の土産類の買い出しを始める。
一度では買い切れない。
ビデオの編集も続ける。

オレンジで作った酢を見つけたので買ってきた。
ネット検索でありがたいのは、料理。
たとえばチンゲン菜とベーコンが冷蔵庫にあれば、そのふたつで検索すればレシピが出てくるというもの。
使いあぐねていたエンダイブはベーコン、ニンニクをいためてサラダにするというレシピを見つけて、そのセンでいってみる。
たしか特別な柑橘系のヴィネガー使用とあったような。
いちいち原典にあたる必要もあるまい。
オレンジ酢を注いでみる。
妙な味になるが、家族にはウケたぞ。


8月15日(木)の記 音楽の調べ
ブラジルにて


聖母マリア被昇天の日。
終戦の詔勅ラヂオ放送の日。

佳境で編集中の作品は、音楽教育がテーマでもある。
午後、中断して、いくつかの所用のため街に出る。
メトロのなかで自然と浮かんでくるのが、ヴィラ・ロボスのバッキアーナのアリアの旋律。

帰宅してから思い切ってDVDで『サウンド・オブ・ミュージック』を見始めることに。
いくつかの理由と偶然があって。
そのひとつは、我が家で散乱・堆積する日本語の雑誌類を処分しようとしていて。
JAL国際線の機内誌「Skyward」今年3月号に中村芳子さんが「旅と映画」のページで紹介している。
いわく「奇跡的な作品としかいいようがない。」、同感。

今週の特筆は、JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」今年7月号の「すごいぞ、クジラ!」という記事。
クジラの死骸は様々な海の生物たちの餌となり、さらにその骨は時には100年にもわたり、多様な生物を養い続けるという。
いわく「鯨骨生物群集」。

これまで、亜熱帯・熱帯の樹木と着生植物、その宇宙に生きる生物たちに想いを馳せることしばしばだった。
今後は鯨骨にも想いを馳せたい。
とはいえ、クラゲ同様、自力じゃナマは見れないだろうけど。


8月16日(金)の記 「反逆の見習い修道女」
ブラジルにて


未明より、『サウンド・オブ・ミュージック』の残りを鑑賞。
これを見終えないと『ばら ばら の ゆめ』を完成できない。

拙作は、人類史上のさまざまなマスターピースへのオマージュかと。
拙著に書いたが、たとえば『ブラジルの土に生きて』は『東京物語』。
『あもーる あもれいら』三部作は『ロード・オブ・ザ・リング』。
『リオ フクシマ』なににしようかと思っていたら、友人が大江健三郎の『ヒロシマ・ノート』を思い出したと指摘してくれた。
『ばら ばら…』は『サウンド・オブ・ミュージック』に決まり。

『サウンド・オブ・ミュージック』のブラジルでのタイトルを家人に聞いて仰天。
『反逆の見習い修道女』。

『大アマゾンの浮気女』に匹敵しそう。


8月17日(土)の記 大芸術の舞台裏
ブラジルにて


午前中はパソコン廻りの作業。
昼食後、思い切って三つの用足しに。

まずはトミエ・オオタケ文化センターで始まった、トミエ先生百歳記念展の第二弾。
展示は小粒だが、トミエ先生の創作プロセスを伝える舞台裏の、いわば下書き、メモにあたる小物がいろいろ展示されている。
うわ、こんな風につくってたのか!
ひょえ、こんな手の内まで見せちゃっていいの?
驚きと発見の連続。

一見、介護老人ホームの作業場を見るよう。
そう見えるところに、ところにアートというものを考えるヒントがあると思う。

次いで、リベルダージで、三度目になる仏人との面会。
今日もカメラをまわされる。
先方は傑作が作れるつもりのようだが、さあどうでしょう。
締めは、日本から大学での講演に来た知人との会食。
先生と呼ばれる職種のなかでは、最も付き合いのない分野の先生なだけに、話が面白い。


8月18日(日)の記 日曜日のドラ
ブラジルにて


今日は一日中、よくぞこれだけメールを打った。

日曜の路上市、今日はドラ焼き狙いでいってみた。
中隅哲郎さんなきあと、「ブラジル学」のスケールでものを語り、書ける人といえば岸和田仁さん。
その岸和田さんがブラジル北東部から上聖(地方からサンパウロにやってくること)する際に楽しみにされているのが、この路上市のドラ焼きだという。

辛党のオカムラはこの地区の住人になって四半世紀が経つが、まだこのどら焼きを口にしたことがない。
初チャレンジ。
おそらく、この出店だろう。
あんこ、クリーム、チョコレートの三種あり。
値段は1.5レアル、邦貨にして70円弱。
今どきのブラジルの物価ではリーズナブル。

こっち生まれの日系人っぽいおじさんが焼いている。
しかし、ブラジル人のポルトガル語のオーダーをきちんと聞き取れていなかったから、日本人一世かも。

家族のための購入だが、アジミニストレーションをする。
ふむ。
甘さ控えめ。
いいのか悪いのかよくわからないが、皮の部分がうどん粉っぽい。
家族には好評。


8月19日(月)の記 二重人格
ブラジル


いやーよく働いた。
いよいよ追い込み。

日本到着翌日からの横浜ジャック&ベティ『リオ フクシマ』公開を記念した手づくりパンフレットの編集。
拙著『忘れられない日本人移民』発行人、「港の人」の里舘勇治さん、原爆文学研究、広島大学の川口隆行さん、Rio+20日本NGO団のコーディネーターの印鑰智哉さんという豪華メンバーの書きおろし寄稿というぜいたくさ!
作品のイメージ画を描いてくれた こうのまきほさんの描きおろしイラスト・オカムラ君も登場!
永久、とは言わないまでも半減期の長い保存版。

こちらの計算違いがあり、「穴埋め」の岡村原稿で調整。
こういうのは、苦手ではない。

加えて、『ばら ばら の ゆめ』試写会用のナレーション原稿の書上げ・入力、本編のシェイプアップ編集。

ひとつ停電、ネット不調でもあればアウトという、薄氷の湖。
おかげさまで、なんとか!
夕食作成中止、出前のピザで勘弁してもらう。


8月20日(火)の記 ブラジルワインでも
ブラジルにて


DVDライターで一枚ずつDVDを焼く。
デジタルのアナログ化ってところか。
手元でできる無難な方法。
これ以上は、誰かに指南してもらわないと。

土産類の買い物の際に、愚生としては思い切った値段のブラジル産ワインを買う。
近隣のチリ、アルゼンチン産でリーズナブル価格でおいしいワインはいろいろある。
しかし天野ジャックとしては、あえてブラジル国産ワインにこだわりたい。

先週、料理用に使うワインの倍近い値段の国産ワインを買ってみた。
ラベルはいい感じ。
グラスに注いで、失敗!と色で思う。
いわば、ファンタグレープ色をしているのだ。
この色にして然り、のお味。
サングリアにでもするしかないか。

今日のは色も味も及第点。
思い切ったとはいえ、邦貨で1000円弱だ。
清貧とまではいかないが、つらいところ。
寒いうちに赤ワイン、飲んどかないとね。


8月21日(水)の記 ふたたび出ブラジル
ブラジル→


さあ覚悟を決めて、ふたたび出ブラジル。
今回はあまり家のことができなかったな。

エティハド航空というアラブ首長国連邦国営の航空会社を使用。
シャトルバスは第1ターミナル到着、第2ターミナルのカウンターまで歩く。
カウンターは第2だが、搭乗は第1だという。
このブラジル新参の航空会社の番付がよくわかるというもの。
エコノミー症候群よけの事前の運動にもってこい。

ゲート近くにドイツ名のビアスタンドがあり。
高そう。
まあ自分へのご褒美というより、話の種として。
最近、なかなかショッピ(生ビール)の街サンパウロで、いいのにありついていない。
泡のキメといい、味といい、よろしいではないか。
300ccで10.20レアイス、450円ってとこか。
産地を聞くと、ブラジル南部のドイツ系移民の街ブルメナウとのこと。

はじめての会社の飛行機は勝手がいろいろと違う。
読書灯のスイッチが手元のコントローラーになく、立ち上がってライトの横のスイッチを押さなければいけないとか。
エコノミー席は6割弱の乗客で、緩くてよろし。
ワインは小瓶でなくて、ボトルから注いでよこす。
馴染みのない、いい感じの味わい。
聞くと、南アフリカ産とのこと。

なんだか、世界が少し広がる。


8月22日(木)の記 みらい美術館
→アラブ首長国連邦→


エティハド航空のエンターテインメントサービス、見事に日本映画が一本もない。
韓国映画、東南アジア映画までそろっているんだけど。
日本語版があるのも限られている。
ふむ。
とりあえずトム・クルーズ主演の『オブリビオン』というSF映画を見る。
21世紀後半という設定だが、そのなかでアンドリュー・ワイエスの絵画が出てきてびっくり。
007の最新作で、モジリアーニがさりげなく登場した時以上に驚いたかも。
ワイエスを知ったのは、福島の県立美術館だったな。

ワイエスのこだわったまことに小さい世界が、未来でも共有されるとは。
人類そっちのけでルーブルの名品を未来に残そうというイントロのSF映画もあったが、今度のみたいな方がいい感じ。

あれ、作品のカバーにある廃墟の高層ビル街の滝、本編にはきちんと出てきてないんじゃない?
それだけ確認にもう一度見るのもめんどくさいな。


8月23日(金)の記 アラブをえらぶ
→日本


アブダビから成田まで10時間弱のフライト。
機内食は2度あるが、2度とも和食のオプションがある。
乗客も過半数が日本人。
まずは和食をチョイス。
小さないなりずしとサーモンの握りがついている。
シャリがべっちゃり系。
「黄うどん」とメニューにあったのは、そうめんの類だった。

そもそもこれから日本に行くのに、アブダビ周りで作った日本メシを食ってもしょうがない。
次はアラブめしをチョイス。
アラブ風卵料理というのは、クミンをたっぷり効かせるのだな、と元・目黒区民にもわかる。

同じ理屈で、せっかくみられるアラブ映画の英語字幕付きのを2本ほど見る。
なかなかのクオリティではないか。
2本目のはエジプト映画らしく、英題がわからないが、『タクシー・ドライバー』へのオマージュ。
アラブ映画、くせになりそう。
音楽教育ものの韓国映画、堂々オランダロケのフィリピン映画も見ちゃう。
なんだかリッチな気分。

どんよりとした成田に着。
知人のツイートに「低温サウナ状態」とあり、それを渋谷からのタクシーの運ちゃんに言うと、やたらに受けていた。
実家に荷物を置き、ひと汗流して。

徒歩でいける学芸大学でさっと挨拶回りをしてから、横浜ジャック&ベティとパラダイス会館で明日からの打ち合わせ。
懇親会候補の大衆中華料理屋で試食をして、実家戻りは深夜。

とりあえず事故もなくてよかった。


8月24日(土)の記 映画がはじまる
日本にて


岡村作品の映画館での上映は、めったにあるものではない。
それだけで僕にとっては大変なお祭り。

いくら好意的な映画館とはいえ、興行である。
通常の自主上映の何倍も、人の入りが気になる。

『リオ フクシマ』二日間の上映の初日の始まり。
監督自ら、御来場された方々にブラジルから持参したコーヒーキャンデーを配る。
思わぬ人、なつかしい人、そして映画館が育ててくれた新たな人たちとの出会い。
ジャック&ベティさんでは確実に出会いをちょうだいしている。

それにしても、目を見張る映像のシャープさ。
コヤの洞窟感もよろしい。

拙著や本日発売の手づくりパンフレットにサインをさせていただく。
昨晩、ロケハンをしておいた階下の「広福源」で懇親会。

*いま気づいたが、店の名に「広島」と「福島」が。「原」でないのが際どいところ。


8月25日(日)の記 リオ フタマタ
日本にて


横浜シネマジャック&ベティは「ジャック」と「ベティ」の二館からなる。
今日は15時20分からベティにて『リオ フクシマ』、18時10分からジャックにて『郷愁は夢のなかで』を上映。
小林副支配人に聞いてみたが、これまで同じ日に両方で同じ監督の作品を上映したことは記憶にないとのこと。
ジャックの方がより暗く長く、より洞窟感覚があっていいかも。

今日も新たな出会い、再会をいくつもいただく。
2度の上映とも終映後に階下のパラダイス会館で懇親会。
『郷愁は夢のなかで』をこれだけいろいろな方々に熱く語っていただけたことがこれまであっただろうか。
This is what we call 供養。
It is 鎮魂 also。


8月26日(月)の記 こなきじじいかとよ
日本にて


今日は13時55分から洞窟シネマ・ジャックの方で『郷愁は夢のなかで』上映。
終了後の階下のパラダイス会館での懇親会がまた面白かった。
もう、わたくしが仕切るしかない、よろこんで。
まさしく一期一会。

夜の時間の使い方。
横浜そごう美術館で開催中の「幽霊・妖怪画大全集」展、閉館30分前の19時30分まで入場できるのか。
ミュージアムの早見は得意とするところ。
行ってみる。

けっこう若いねーちゃんがたが入っている。
なんだか疲労感が湧いてくる。
背負っているショルダーバッグがやたらに重い。
明日は上映のあとで夜行バスと鈍行列車を乗り継いで、みちのくに向かうというのに、まずいかも。
観賞もそこそこに。

なんかの妖怪に精気を奪われたのか。
カバンが重くなったのは、子泣き爺か。
ギアナ高地の旅で、カッパを被った橋本梧郎先生を「子泣き爺みたいですね」とからかったことがある。
やべ、今日は橋本先生のお命日!!


8月27日(火)の記 説教上映
日本にて


黄金町の駅に着くと、無意識のうちに湧き上がってくる音楽が。
『天国と地獄』の酒匂川鉄橋下の、あの曲。

なんといっても思春期の大半を、映画館という洞窟の闇で過ごしていた。
いわば穴居人。
土曜から昨日まで三日間で4回の映画館での上映に感無量。
もうしばらくは映画館での上映はないかと思うと、気分は「晩夏」。

ジャックで『三姉妹』を見せていただき、伊勢佐木町のネカフェで作業。
さあ横浜パラダイス会館でふたたびポンデケージョ作り。

19時半からの『ブラジル最後の勝ち組老人』満員御礼、熱気むんむん。
質疑応答、がんがん弾む。
まさしく、一期一会の出会いと語り合い。

岡村もこの作品を新たに発見。
「天災が来たら、日本はカボウ(ブラジル日系人言葉で「おしまい」の意)」という脇山さんは、預言者ではなかろうか。
日本が勝ったというのは、滅び行く帝国へのオマージュと言えるかもしれない。
それにしても、いい寄り合いだった。

僕は映画館の闇におぼれず、これでなくちゃいけないかも。
余韻に浸りつつ、横浜駅のバスターミナルへ。
夜バスでまずは仙台を目指す。


8月28日(水)の記 縄文列車でいこう
日本にて


横浜から山形行きの夜行バスがない。
福島行きか、仙台行きか。
後者とした。

JRバスは乗務員の休息停車タイムも客を降ろしてくれない。
客を家畜か、強制収容所送りぐらいに考えているのだろう。

仙台に到着すると、近くのネットカフェの割引券を希望者に配るという。
もらう。
アイカフェというチェーンだが、なかなか快適、野菜果物ジュース類もあり。

仙山線で山形へ。
県境ぐらいから、縄文を感ず。
9月のPARC縄文講座で話そうか。
車窓からの山寺の奇観は、あっぱれ。
絶壁に築かれた伽藍。

寒河江下車、午後の所用まで入湯。
露天風呂から見える最上川をあかで眺める。

夜、山形からふたたび夜行バス。
JRじゃないので、解放感あり。


8月29日(木)の記 ばら ばら で はらはら
日本にて


夜バスで上京。

ノートパソコンに入力してあるナレーション原稿を、プリントアウトするのが一苦労。
USBに入れてコンビニのセルフプリントアウトサービスで、と考えていた。
しかし試行錯誤とハシゴを重ねて、WORD形式ではNG、PDFに変換しないといけないことを知る。
何軒、コンビニを回ったことか。

今晩は西荻窪APARECIDAにて、岡村ナマ弁士版にて最新作『ばら ばら の ゆめ』の関係者向け試写会。
全編神奈川ロケで、日本とブラジルの交流を描く僕なりの野心作。

試写会場には、主役の木村浩介さんはじめ、作品に登場する人たちが5人。
それぞれ、自分がドキュメンタリーの住人になる不思議な感覚を堪能したようだ。
店主のWillieさんから、今後の留意事項をご教示いただく。


8月30日(金)の記 三田でみた
日本にて


次なる遠征の前に、上映の合間を縫って、ちょっと重い郵便系をいくつか。
埼玉・東松山の丸木美術館での山本作兵衛展を見ておきたかったが、時間的に断念。

午後、学芸大学の挨拶回りをしてからバスで三田に行くことを発念。
バスはこれから上映する『60年目の東京物語』のロケ地、港区寺町の宝生院の前を通っていくではないか。

今日の上映は、慶應大学近くの「三田の家」というスペース。
民家を用いた場所とのことで、10月には活動を停止する由。
その前にぜひ、というお話で。

10数名のキャパとのことで、岡村の方からの告知は見合わせた。
日本人の他に英語ネイティブの人、そのほか確認できたのはロシア人、インドネシア人、ガーナ人。
まずは『60年目の東京物語』の上映、「英語の字幕はありますか?」と聞かれるが、あるべくもない。
急きょオカムラの英語弁士。
これは、さすがに初体験かも。
受験英語の真価を問われてしまった。

外人の皆さんは東京の夜を恐れてか、本当に他の用事があるのか岡村の英語に絶望したか、インターバルで皆さん退場。
でも英語で拙作を絶賛してくれた、みたいだぞ。
ついで『京 サンパウロ/移民画家トミエ・オオタケ 八十路の華』を弁士なしで上映。

話は尽きず、軽井沢産という缶ビールをいただきながら、こっちの終電ギリまで盛り上がる。


8月31日(土)の記 橋本梧郎先生の地元では
日本にて


いよいよ有志による橋本梧郎先生生誕100周年記念上映の日。
おかげさまで、まことにいい寄り合いが実現した。

あえて、泣き寝入りをせずに記そう。

どうしたことか、橋本先生をめぐっては、他では類を見ないような奇怪な事件、破廉恥な輩が少なくなかった。
生前、橋本先生に泣きつかれて、先生のもとから資料類を持ち出して返却に応じないNHKのディレクターの告発を行なったことなど、一例。
これもだいぶ返り血を浴びた。

橋本先生の生誕100周年の年に、出身地の静岡県や菊川市で何もイベントがないことが今回、我々を発奮させることになった。
ところが今月になって、菊川市が橋本先生顕彰プロジェクトを実施したことを知った。
なんと、地元のホールで岡村淳製作・著作の『パタゴニア 風に戦ぐ花 橋本梧郎南米博物誌』が二日間にわたって上映されたというのだ。
製作・著作者に無断で。
菊川市のウエブサイトの問合せフォーマットからどういうことなどか照会すると、社会教育課の担当から著作権の認識が甘かった、軽いノリで地元の図書館にあったVHSテープを公開上映しまった、今後は十分留意する、との平謝りのメールが届いた。
ところが今度はそれから1週間ほどを経て、菊川市のホームページの市長のページに、市長と橋本先生の2ショットの写真が掲げられ、菊川市の『パタゴニア 風に戦ぐ花』公開上映を橋本先生顕彰事業として宣伝しているではないか。

あまりにこちらを愚弄し、橋本先生を政治的に利用する行政と政治家の怠慢と傲慢と言わざるを得ない。
このような広報が市長の名で公表されている以上、無断上映についての市長による謝罪か謝辞、あるいは常識的な上映料の支払いを求めるメールを社会教育課の担当に送ったが、黙殺された。
そのため、市長あてに同様の問い合わせをしたが、無回答のままである。
今日の上映に謝罪の特使でもやってくるかと思いきや、それもなし。

菊川市の前身の小笠町時代にも、橋本先生を食い物にして僕のことを便利屋として、傲慢にふるまう役人がいた。
菊川市になってからは、市長の名前でそれが繰り広げられるようになってしまった。
ブラジル側の橋本先生の取り巻きにもひどいのが少なくなかったが、日本の地元は勝るとも劣らない。

個人の善意のネットワークで、こうしたでたらめな行政と政治家に拮抗したい。


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