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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2017年の日記  (最終更新日 : 2017/09/24)
8月21日(月)の記 食堂にたとえると

8月21日(月)の記 食堂にたとえると (2017/08/21) 食堂にたとえると
ブラジルにて


ちょっとややこしい問題発生。
食堂にたとえてみよう。

料理分野を専門にする自分が、古くからの知人がスタッフとして働くことになったレストランに行ってみたとする。
勘定は、自前で。
老齢を迎える知人が店員として奔走するのは、胸を打つ。
しかし店の経営方針、内装、そしてせっかくの食材の料理方法、さらに化学調味料たっぷりの味付けがいただけない。
「おすすめ・地魚定食」というのを頼んだら、地魚に混じってチリ産養殖サーモン、ロシア産イクラが乗っかっているではないか。

自分も料理関係者として、知人には申し訳ないが、ちょっと不特定多数にこのお店をすすめることはできない。
しかし同じく食を求道する仲間たちとは、こういう店のあり方が許されるかどうか、意見を交換したい。

僕が8月12日に見て、その日付のウエブ日記に記した邦訳すると『ヒロシマの3人の被爆者』という出し物の問題は、そういったところだろうか。
この劇場に、ブラジルに来たばかりという若い邦字新聞社の記者が来ていて、終了後に僕がインタビューを受けて感想を求められた。
この日のウエブ日記に書いたのと同様の発言をした。

ところが18日付けの『サンパウロ新聞』の記事で僕の実名の発言として「被爆者が演じる点を見てほしい」とあるではないか。
もちろん記者に悪意はないだろうし、高齢をおしてこうした舞台に立って奮闘する被爆者の方々には胸を打たれる。
しかし、不特定多数の方々に僕が実名で「見てほしい」とは言いかねるのだ。

僕はこれまで、友人知人から、そして恩人からでも書籍や映画の推薦を頼まれても、その作品に自分が本心から感動して、他人にすすめたいと思えない場合は相手との人間関係が悪くなろうとも失礼してきた。
ブラジル、被爆者、あるいは僕の名前で検索をするとこの記事がヒットする。
なんだ、オカムラという輩はこれまでの日本での言動とは異なることをのほほんとブラジルの邦字紙でうそぶいているではないか、ということになってしまう。

この出し物の基本的な問題については、8月12日付拙ウエブ日記で指摘したとおりだ。

3人の被爆者は冒頭でひとりずつ、自分は「本物の」被爆者だ、とポルトガル語で宣言する。
「本物」と自らうたった被爆者が、自分の体験していない、メディアで流布するステレオタイプな被爆者群像を演じる、というのは僕には疑問である。
これはあくまでも演じた被爆者の責任ではなく、演じさせた演出家の問題だが。
「ホンモノの地魚定食」のなかに養殖魚が入っていてもいいのかどうか。

そして「本物の」犠牲者にその惨状の被害者を演じさせるという表現者のあり方に大いに疑問を感じている。
同じく第2次大戦時の被害者を例に考えてみよう。
ナチスの強制収容所の「本物の」生存者に、ガス室でもだえ苦しんでいく犠牲者たちを演じさせられるかどうか。
日本軍の従軍慰安婦の生存者に、日本軍人たちとの慰安婦としての営みを演じさせられるかどうか。
沖縄の地上戦で家族が集団自決を強要されるなか、奇跡的に生き延びたが幼少のため当時の記憶がない人に、集団自決を演じさせられるかどうか。

僕はこの芝居を見ながら、19世紀のヨーロッパの博覧会で見世物にされた南米の先住民たち、そして20世紀の日本の都市部で見世物にされた北海道や台湾の先住民の人々のことを想っていた。

さて、当日の公演では観客に日本人一世らしいのは邦字紙記者の彼氏以外には見当たらなかったし、まずこの記事を読んで岡村がすすめているから、とこれからの公演に来る人がいるとは考えにくい。
先述のように悪意のある話ではないので、邦字紙そのものにわざわざクレームをする必要もないだろう。
僕の方はネット上などでこの記事を見るかもしれない友人知人へのエクスキューズとして、この公演をすすめる発言はしていない由のメッセージをツイッターとフェイスブックで発表しておいた。

すろとさっそくサンパウロ新聞の担当記者とデスクのそれぞれからお詫び、そして訂正記事を掲載したいというメッセージをいただいた。
わざわざ訂正にはおよばないと申し上げたが、「言っていない発言を載せてしまった自分たちの信用にかかわるので」と譲らないデスクに感動。

僕としてはブラジルの被爆者の皆さんを応援してきただけに、どのようにしていただくかがむずかしいところ。
担当記者、デスクと何度ものやり取りの末、「高齢の被爆者の方々の舞台での奮闘に胸を打たれたが、被爆者自身の証言と演技を混同する演出には疑問を持った」という発言に訂正していただいた。

いったい何が問題なのか、それほど問題にするほどのことなどか等々、この出し物に関心を持たれた方には、どうぞご自身で足を運んでお確かめいただきたい。
今月26日にもサンパウロ市で公演あり。

オンライン版はさっそく訂正されて、紙面では明日付で訂正記事を掲載する由。
想えば日本でいろいろなメディアからけっこうでたらめな扱いを受けてきた。

間違いは、やむを得ず生じてしまうことがある。
それをごまかさず、逃げずに誠意をもって敏速にこれだけ対応していただいたことが、他にあっただろうか。

日本のメディア関係者に見習ってもらいたい。
まずは安倍晋三内閣総理大臣とその取り巻きに。

さあ、このあたりで他人様のお仕事の云々は控えさせていただき、自分の作業に取り掛からせてもらいましょう。


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