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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2020年の日記  (最終更新日 : 2020/07/10)
4月14日(火)の記 帝銀事件 2020

4月14日(火)の記 帝銀事件 2020 (2020/04/15) 帝銀事件 2020
ブラジルにて


からくも日本を脱出してブラジルにたどり着いて、半月あまりとなる。
14日間のコロナウイルス経過観察期間はクリアしたが、サンパウロ州の外出制限令は続く。

家族の食事の支度、食材の買い出しをメインとして、あとは本業にまつわる諸々の通信、オンライン作業、身辺整理の日々だ。
ブラジルに戻ってから、書籍だけで20冊ぐらいぱらぱらと読み散らかしている。
読了したのは、数冊。
いまひとつ、読み耽るような本に出会っていない。
こっちの感性が枯れてしまったのかと危惧。

積んどきっぱなしの書籍を背表紙をながめていて、文庫の『秘録 帝銀事件』(森川哲郎著)を引っ張り出す。
文庫の発行が西暦2009年。
いつどこでどうして買ったか、もはや記憶にない。
いまさら帝銀事件でも…と思いつつも読み始めてみる。

驚いた。
帝銀事件が発生したのは西暦1948年1月23日。
場所は、東京の椎名町。
僕は今年のこの日、はからずも現場付近を彷徨していたのだ。
事件が発生したのは午後の銀行の閉店時間。
僕は前夜に江古田のギャラリー古藤での特集上映を終えて懇親2次会まで付き合って終電を逃してしまった。
日付は23日となり、大荷物を抱えて寒空のもと、とりあえず池袋をめざして椎名町を深夜にとぼとぼと通過した次第。

その72年前。
帝国銀行椎名町支店に東京都防疫課職員と名乗る人間が現れた。
近くで赤痢が発生し、その家族が本日、この銀行に立ち寄ったので予防薬を飲んでほしいという。
銀行職員と住み込みの家族ら計16人が、防疫課職員という男の指示に従って液体を飲み…
全員が即、もだえ苦しみ、12人が亡くなった。
男は現金や小切手を奪って逃走した。

犯人は毒物の人間への扱いを知悉していたことから、旧日本軍関係者が疑われた。
しかし関東軍731舞台関係者などへの調査はGHQから横槍が入る。
逮捕されたのは、自供しか証拠のない画家の平沢貞道さん。
平沢さんは決定的な証拠を欠いたまま、死刑を宣告される。

僕がこの事件に興味を持ったのは、松本清張にのめり込んでいた高校時代にさかのぼる。
わが亡母は事件当時、椎名町に住んでいて、勤めの帰りにごった返す現場を通ったという。
平沢さんの支援者が早稲田にあった小さな画廊で平沢さんのテンペラ画展を開いたのを大学時代に見に行ったこともある。

すでに事件のディテールの多くを忘れていた。
今の視点で読み返すと、犯人は現場でマスクをしていないことに気づく。
マスクを使えば、より人相も声もごまかせたのに。

この本の著者の森川哲郎さんはすでに故人となったジャーナリスト。
取材を通して平沢さんを愛し、平沢さんの支援と救済のために私財も人生そのものも捧げ尽くしていた。
その気迫がひしひしと伝わってくる…


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