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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2020年の日記  (最終更新日 : 2020/08/07)
6月3日(水)の記 東京の悪口

6月3日(水)の記 東京の悪口 (2020/06/03) 東京の悪口
ブラジルにて


「函入りの本の場合は特にシビアである。
本を函から出すときには、二~三回振ってみて、スッスと出てくる具合が理想的とされている。
ぴったり過ぎてもだめだし、ぶかぶかでももちろんだめ。」
「本は特別なものじゃない」笠井瑠美子さん著(『本を贈る』三輪舎)

本の箱をつくる側のたいへんさを、恥ずかしながら想像したこともなかった。
そもそも久しく箱入りの本を買った記憶がない。

『東京焼盡』についてネットにあげたものにうれしい反応をいただき、図に乗る。
東京アラーさがしシリーズ第2弾は獅子文六著『東京の悪口』。
これも流浪堂さんで求めたような覚えがあるのだが…
二見店主の値段書きも挟み込みのお店の緑の値段カードも見当たらない。
該当箇所には貼ったものを剥がした痕と、二見さんではない鉛筆書きの数字がある。
古本屋を何軒か回ったのだろう。
西暦1959年発行の初版、新潮社。
これは検印廃止になっている。
今朝、ようやく読了。

この本が箱入りなのだ。
かの谷内六郎画伯の装丁なのだが、箱の絵は僕にはあまり面白くない。
地味に見える本体の表紙を見て、びっくり。
気づいていなかった。
植物の柄がプレスしてあり、それに白いカタツムリを二頭、這わせているのだ。
これはアートだ。
アート驚く為五郎。
https://twitter.com/junbrasil/status/1268545986504339461/photo/1

「私は、街頭や車中で、近頃の東京人が悪相になったと、驚くことがある。男も女も、ずいぶん人相が悪くなった。美人は美人で、眼つきがよくない。」
「精神生活というものと、完全に絶縁した人間でなければ、あんな面相にはならない。
 そのくせ、彼らの身許を洗ってみれば、恐らく大部分が大学を出ているだろう。東大でもいるにちがいない。日本の教育とはどういうことなのだと、考える前に、あんな面にならなければ、東京の世渡りはできぬ事情もあろうと、惻隠の情も起る。」
(「東京の悪口」より。)

60年以上前の記載である。
いらい、その悪相はどのように変化していったかは…
コロナ禍のマスク着用で、悪相はだいぶ隠されていることだろうけど。
それにしても西暦2020年の東京の白マスクだらけの群衆の映像も不気味。

「とにかく、東京をどうかしなくてはならない。私の考えでは、まず第一に、都庁が全力をあげて厭人思想を鼓舞することである。
 ガリヴァー旅行記とか、ショウペンハウエルの哲学書とか、正宗白鳥の小説とかいうものを、都民に無料配布して、人間とはロクなものではない、その人間が沢山集れば、いよいよロクなことは起らないということを、広く知らしめるのである。
 都知事始め各職員が、巷に立って孤独のいかに愛すべきこと、山林のいかに安らかなることを、都民に訴えるのである。」
(「東京の悪口」)
これを最初に読んだときはコロナパンデミック以前で、あまりピンとこなかった。
いまやゴジラシリーズのタイトルなみの「東京SOS」となってしまった。

獅子文六については名前は承知していたが、それ以上のイメージの湧く人ではなかった。
今回、この随筆集を読んで、一編が数ページ程度で読みやすいのには好感が持てた。
しかし上の最初の引用のカギカッコの間には、僕にはとても引用できない記載がある。
さらに他の随筆を読み進めると、僕の疑問のありかがわかってきた。
皇族に対する思い入れや、第2次大戦時の日本軍の人類史の負の遺産といえる人道への犯罪行為の数々に対して、反省どころかリメンバー原爆で応じる姿勢に強い違和感を覚えた。
彼について検索してみると、敗戦後は「戦争協力作家」として「追放」の「仮処分」を受けていた、とある。
『東京焼盡』の内田百閒と好対照だ。

獅子文六は「一億総白痴化」の戦後日本で売れまくっていたことを知る。
大手新聞での連載小説が終わらぬうちに、他の大手新聞の連載小説も引き受けて並行させる。
自分の原作を、一度に二つの映画会社で同時に映画化させる。
マスメディアの寵児といったところか。

獅子文六の、自分のベストセラーを読み返してのコメントは、わがドキュメンタリー観に通じて面白かった。

「その筋はこしらえた筋よりも、私自身に面白く読めた。これは私として、なかなか参考になった。小説の筋というものを、調子に乗ってひねくり回すのは、筋をつまらなくする以外のことでしかないと、考えるようになった。」
(「モデルと小説」『東京の悪口』所蔵)




 


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