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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2020年の日記  (最終更新日 : 2020/08/07)
6月4日(木)の記 発酵果実を炒る

6月4日(木)の記 発酵果実を炒る (2020/06/04) 発酵果実を炒る
ブラジルにて


アフリカ原産とされる樹木にみのったフルーツをもいで発酵させる。
それを炒って粉にして、お湯で濾して飲む。
コーヒーのことだ。

恥ずかしながらコーヒーが発酵食品であると意識したのは近年のこと。
コーヒーはこの星で年間どれぐらい消費されているか。
下記の本によると、コーヒーカップに年に5000億杯だという。

5000億杯。
わがブラジルの人口を少なめに2億として、ひとりが一日3杯、飲むとして。
それだけで年に2000億杯を超えてしまう。
すると、控えめな数字かもしれない。

世界に誇るブラジル人の写真家、セバスチャン・サルガドが西暦2015年に出した大写真集『PERFUME DE SONHO(夢の香り)』をようやく通しで見終えた。
わが家にある最も重い本かもしれない。
5キロ近いか。
少なくとも、わが愛機のビデオカメラより重い。
金額的にも、まず自分では買い控えるレベルだが、家人に贈られた。

サルガドがイタリアのコーヒーメーカー illyの協力を得て、世界3大陸10か国の家族的規模のコーヒー生産の刹那を10年がかりで撮った労作だ。
サルガドの故郷、ブラジルのミナスジェライスからサンパウロ。
中米の少数民族からアフリカ諸国、インドにインドネシア、中国雲南まで。
キャプションは巻末にまとめられているので、まず写真を見て、この人たちは、この景観は地球のどこにいる/あるのだろう、と想像を巡らせるだけでも楽しい。

「たかがコーヒー」から、世界が、個人が浮かび上がってくる。
いい仕事だと思うが、日本を訪れた際にコーヒー業界の人や写真業界の人との「茶飲み話」でこの写真集の話を持ち出して、この本を知っているという人にまだ会ったことがない。
(追記:拙稿を読まれたフォトグラファーの渋谷敦志さんから、以下のご教示をいただきました:
この本の中のインドネシア・スラウェシ島の農園の写真は、キーコーヒーが持つ農園で撮られたもののようです。キーコーヒーはillyの日本における正規代理会社という関係。現地駐在の日本人がスラウェシでサルガド氏を案内しています。トアルコ・トラジャという素晴らしいビンテージ・カフェを作ってますね。島のマカッサル市にあるキーコーヒーの直営レストランには、このPerfume de Sonhoのオリジナルプリントが4、5点展示されていて、サルガドも訪れています。)

サルガドのプロフィールを少しでも知る人なら、彼とコーヒーとの強い絆をご存じだろう。

この本を最初にめくってから、もう年月が経ってしまった。
が、サルガドはコーヒーを飲んだことがないと書いてあったように記憶する。
しかし、考えられない。
さんざん探して、冒頭一行目に本人が書いていた。
「私はいままでコーヒーを飲んだことがない。」
まさか、と思う。
コーヒーメーカーの協力を得て、10年がかりで世界10か国のコーヒー生産地と生産者を回って、コーヒーを飲まないなんて。

それでもサルガドならオッケーな気がしてしまうから不思議。
サルガドには稀有なことに、表紙から笑顔の人物。
コーヒーは人を笑顔にするのか。

大黒澤の『七人の侍』の勘兵衛の台詞「この飯、おろそかには食わぬぞ」にちなんで。
この写真集のおかげでコーヒーをおろそかに飲まず、世界の小農民たちに想いをはせることができる。
お代わりのときには、コーヒーが生んだブラジルの日本人移民史を想うか。





  


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