ブラジルのお盆 (2020/05/31)
ブラジルのお盆(西暦2003年12月発表)
ブラジルに「お盆」があるって、知っていましたか? さてそれは、いつでしょう? 日本の旧盆は8月。ブラジルは国土の大半が南半球だから、その反対で2月がお盆? う〜ん。残念でした。
答えは11月2日です。 この日はキリスト教で「死者の日」と呼ばれ、ブラジルでは「フィナードの日」といいます。 カトリックとプロテスタントを合わせて国民の9割がキリスト教信者のブラジルでは、この日に家族揃ってお墓まいりをする習慣があります。 キリスト教とは縁遠かった多くの日本人移民達は、祖国の習慣にちなんでフィナードを「お盆」と称して、ブラジル人にならってお墓参りをするようになりました。現在では、フィナードの日の夜に日本式の盆踊りをしたり、燈籠流しをする日本人移住地もあるほどです。
今年の「ブラジルのお盆」の日、私はアマゾンを訪ねました。近年、ボイ・ブンバの祭りで有名になったアマゾン川中流のパリンチンスの町に向かいます。無縁仏となりつつある、第2次世界大戦前にブラジルに渡った日本人移民のお墓参りと取材をするのが目的でした。 普段のブラジルの墓地はひっそりと静まりかえり、日本と違って土葬が一般的なので真新しい土まんじゅうもボコボコとあって、日本の墓地よりホラーな印象があります。 ところが、ブラジルのお盆を体験して、私のイメージは激変してしまいました。
ブラジルの墓地は、あったかくて楽しい! フィナードの数日前から、墓地は当日に備えて掃除をしたり改装する人たちで活気を帯び始めます。前日になると花や飾り物、飲み物などの出店が墓地の入り口周辺に並びます。 当日、人出が激しくなるのは夕方から。田舎町のどこに潜んでいたのかと疑うほどの人の波が、墓地に押し寄せます。人々はそれぞれの家族のお墓をロウソクと花で飾り立て、お墓を囲んで祈りと語らいの時を過ごします。 アマゾンの夕暮れ時、墓地全体が無数のロウソクの明かりで浮かび上がりました。墓地の中央にある巨大な十字架の周囲には、故郷から離れている人やお墓のない人たちが群がってロウソクを立てます。あたりは明るいどころか、一面のロウソクの熱で空気がサウナ風呂のように熱くなっています。背後には警官が消火器を持って控えていて、溶けて地面を覆うロウが燃え上がるのを鎮火します。
まだ死別から日が浅いのか、泣きじゃくっていたり、一心に祈り続ける人も時折見受けられます。しかし、なんといっても根はラテンなブラジル人。多くの人々はお祭り気分で、お墓参りをしながらも笑い声が絶えません。そして若い人の多いこと! 「アロー。ジョセ? あたし、マリアよ。どこからケータイかけてると思う? お墓の中よ!」 地元の日系人がロウソクを立ててくれた、日本人の無縁墓の前を若い娘がこんな会話をしながら通り過ぎました。 墓地は夜半まで人出で賑わい続けます。 霊魂となってアマゾンの天空から、闇に浮かぶ無数のロウソクの明かりを眺めたら、どんなに素敵なことでしょう。
アマゾンも盆が早よ来こりゃムイト・ボン
※一言ブラジル語講座:ムイト・ボン=英語のベリー・グッド。「とても良い」の意でした。
(西暦2020年5月改定)
17年目の追記 このアマゾンの墓地訪問は拙作『アマゾンの読経』取材時の体験です。 http://www.100nen.com.br/ja/okajun/000044/20041215000826.cfm?j=1 この項ではブラジルに限定して書いていますが、「死者の日」のお祭りと頭蓋骨フェチなどはメキシコの方が盛んです。 中南米の先史文化以来の流れで見ていくと、面白くも奥深いものがありそうです。 この追記を書いている今、世界はCOVID-19の大流行を迎え、わがブラジルはサッカー並みにコロナ感染者数と死者の大国となってしまいました。 アマゾン地方での地面に重機で次々と墓穴を掘って防護服姿の埋葬作業員が棺を納めていく映像が日本のニュースにも流れていることでしょう。 今年の11月の死者の日には、いまだ墓参りにもマスクが必要かもしれません。
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