ブラジルの日本語映画『ウルチモ・サムライ』 (2020/06/27)
ブラジルの日本語映画『ウルチモ・サムライ』(西暦2004年3月発表)
これは現在(西暦2004年当時)、ブラジルの日系人社会で話題を呼んでいる映画のタイトルです。 「ウルチモ」はポルトガル語で「最後の」の意味で、英語の「ラスト」と同じ。 そうです。日本でもロードショー公開中の『ラストサムライ』でした。
この映画の日本語字幕版の試写会を、ブラジルの日本語新聞社がサンパウロで開催しました。 正直なところ私あたりは、今さらブラジルで日本語版の映画なんて…と思っていました。 さてフタを開けてみると、日本人一世のお年寄りが殺到しての大人気となりました。 このため、サンパウロ市のショッピングセンターにあるシネコンの映画館の1館で毎日1回、日本語字幕版の『ウルチモ・サムライ』が上映されることとなったのです。
ブラジルにやってきた日本人移民にとって、日本映画は娯楽の王様でした。 赤い大鳥居で知られるサンパウロの東洋人街リベルダーデも、日本映画館を中心に発展しました。 全盛期には、東洋人街に4館もの日本映画専門館があったのです! しかし、日本人1世の高齢化、ビデオの普及、市内の治安の悪化などにより、1988年には最後の1館が幕を閉じました。
近年はブラジルで日本映画が一般公開されることは、極めてまれになりました。 ここ数年では世界的に評判になった『千と千尋の神隠し』(ブラジルのタイトルは「チヒロの旅」)ぐらいです。 ちなみにブラジルでこれまで最も話題を呼んだ日本語映画(制作国はフランス)は、現地タイトル『官能の帝国』、大島渚監督の「愛のコリーダ』でした。 今回はハリウッド映画とはいえ、久々に日本語映画が話題となり、私も日本語字幕版にチャレンジしました。 平日の午後4時20分からの上映。堅気の勤め人の来られる時間ではありません。 ところが! 開映20分前に切符売り場に到着しましたが、座席数200ほどの映画館はすでに満員札止め。 「なんだ、アンタもかね?」 顔見知りのお年寄りが何人もあぶれています。 日本語でブーブー文句を言っている若者たちもいます。 ブラジルで日本語映画を見たがっているのは、お年寄りの移住者だけでなく、駐在員とその家族、サッカーなどの留学生など、幅が広いことに気づかされました。
私は2回目のトライで、ようやく入場券をゲット。場内は見事に日本人の顔ばかり。何十年ぶりに映画を見た、日本語版を見るために地方から長距離バスに乗ってきた、という人たちも。 映画のヒットを受けて、最近の日本語新聞では社説に「我々も最後の『侍』に」、投書欄に「(映画を見て)私は日本人で良かったなあ」といった調子が続いています。 移住者たちは、滅びゆくサムライ集団に自分たちをオーバーラップさせてしまうのでしょう。
それにしてもハリウッド製のこの日本語映画が、ブラジルで公開される日本語映画の「ウルチモ」にならないことを願うばかりです。 (西暦2020年6月加筆)
| ブラジルの日本映画館での空前絶後のヒット作 『明治天皇と日露大戦争』のブラジル版チラシ コロナ巣ごもり中に我が家で発掘したお宝 |
| 16年目のためいき 『ラストサムライ』がブラジルで上映されたことは記憶していますが、日本語新聞社主催の試写会や日本語字幕版の上映が行われたことなどは、すっかり失念していました。 それから16年を経て、いまや隔日の思いがあります。 この主催の老舗の日本語新聞もすでに廃刊となりました。 すでに大日本帝国時代に移住してご存命の人は、きわめてまれな存在です。 コロナ禍によって日本からの駐在家族も引き上げ、冬の到来はそのまま氷河期になるかもしれません。 近年、当地で劇場公開された日本の映画で僕が思い出せるのは是枝裕和監督の『万引き家族』ぐらいでしょうか。 祖国から移入した日本文化が、こちらでは劣化コピーになりがちなのは無理からぬことでしょう。 しかしニセモノが持ち込まれてそれをホンモノとしてあがめてしまうのは、遠隔地ゆえの悲劇でしょうか。 たとえば『ラストサムライ』はすべてニュージーランドでロケが行われて、遠藤周作原作の『沈黙』は台湾でロケされています。 こうした日本が舞台の国際的な映画が外地でロケされていることには祖国日本でもあまり問題にならないようですから、こちらではなおさら… 南半球の赤道の彼方で、とんでもないハイブリッドの誕生を夢想するばかりです。 (西暦2020年6月27日 記す)
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