ブラジルの滝とわが家の滝 (2021/06/07)
ブラジルの滝とわが家の滝(西暦2004年10月発表)
わが南米大陸は、さまざまな滝の宝庫です。 世界最大の規模と水量を誇るイグアスの滝(ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ国境)、そして世界最高の落差を誇るエンゼル・フォール(ベネズエラ)を始め、無数の滝があります。
そもそも南米大陸は西側を南北に走るアンデス山脈を除いて、地質学的には実に古い陸地なのです。 やわらかい地層は徐々に削り取られていき、残った硬い地層の大地から流れ落ちる水流が各地で滝を形成しているのです。
今から10数年前。南米大陸のほぼ中央にある、ブラジルはマットグロッソ州のシャパーダ・ドス・ギマラエンス国立公園に滞在して取材をしていた時のことです。
サンパウロに残した妻は初めての出産を控えていました。 まだ性別はわかっていませんでしたが、そろそろわが子の名前を準備しなければなりませんでした。
私の授かった名前は「淳」、小さい時は女みたいだとからかわれましたが、漢字一文字というのはけっこう気に入っています。 わが子も漢字一文字で、できれば父親と同じ「さんずい」シリーズで決めたいなという思いがありました。 さてシャパーダ・ドス・ギマラエンス国立公園ですが、広大なテーブルマウンテン地帯です。 「花嫁のヴェール」と呼ばれる一条の滝がブラジルでは知られていますが、現地に暮らすガイドによると、公園内には50以上の滝があるといいます。
このガイドから、さる滝の裏に洞窟があり、そこに不思議な古代遺跡があると聞かされました。 そういった話がキライではない私は、ガイド料とチャーター車代を奮発して現地に向かいました。
ハードな土道を、現地の人に尋ね尋ねの旅です。 途中、車を降りるとガイドも知らないあっぱれな滝が足元を落下していたりします。
ここでひらめきました。 「子供の名前は『滝』にしよう!」 「滝」なら、性別フリーで使えそうです。
日本で滝の観光といえば、眺めて写真を撮るぐらいでしょうか。 ところがブラジルでは、滝は水浴びのスポットなのです。 滝壺を泳ぎ回り、10メートルぐらいまでの滝なら、上から飛び込んだり、滝に打たれての天然シャワーを楽しむのです。 さすがに巨大なイグアスの滝でこんなことをする人はいないようですが。
最初に滝浴びの光景を見た時はショックでした。 日本では子供の頃、近所の不動の滝で行者が滝浴びの修行をしているのを見たことがあります。 日本では宗教の修行の場が、ブラジルではイケイケの水着の若い男女の交歓の場になっているとは!
近年になって、滝は水が大量のマイナスイオンを放出するので、身心のリフレッシュに極めて効果的であることがわかってきました。 日本の修験者もブラジルの若者も、直感的にこれがわかっていたのでしょう。 私の命名もまんざらではなかったようです。
ちなみに、わが家の滝は女の子でした。 次の休みには、親子でどこの滝に行こうかと、今からソワソワしている名付け親でした。
さてさて、前述のナゾの遺跡は・・・次回連載をお楽しみに! (西暦2021年6月8日 加筆)
再録寸言: COVID-19の流行による活動自粛が続くこと1年以上。 最後に実際に滝を見たのは、いつ、どこだったかの記憶も定かではなくなってしまいました。 先週、車でブラジル国内ひさびさの遠征をしました。 現地で近くに空想の産物のような滝があることを知りました。 残念ながら訪問可能なのは週末のみとのことで、今回は断念しました。 なにか口実をつくって近場のナマの滝を訪ねることができないか、思案中です。 (2021年6月8日 記す)
写真解説: 西暦2012年撮影、2018年公開の拙作『リオフクシマ 2』のクライマックス、「魂の滝」で撮影中の筆者。 前田聡子さん撮影。
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