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岡村淳のオフレコ日記
     岡村淳/住めばブラジル (改訂版)  (最終更新日 : 2023/03/10)
プライアの季節 [画像を表示]

プライアの季節 (2023/01/09) プライアの季節(西暦2005年1月発表)

日本で長年、働いてようやくブラジルに戻る日系ブラジル人。
彼らが祖国に帰って、まず最初に行きたいところはどこでしょう?
そう、多くの人たちが「プライア!(海岸)」と叫ぶはずです。
しかし、そこは広くて多様なブラジルのこと。
なかには内陸で生まれ育って、日本に来て初めて海水浴をした、という人も少なくないのですが。

ブラジルの国土の東側は7000キロ以上にもおよぶ大西洋の海岸線。
海水浴スポットが目白押しです。
その他、アマゾン河などでは「河水浴場」の有名な観光スポットもあります。

我がサンパウロの町からですと、最も近いサントスの海岸まで自動車で飛ばせば約1時間。
サントスから南に行っても北に行っても、海水浴場が続いています。
いきおい、連休ともなればパウリスターノ(サンパウロっ子)はプライアを目指します。
ましてや日本の冬は、ブラジルの夏!
この年末年始(西暦2004年〜2005年)にサンパウロを脱出した車の数は、およそ140万台。
そのうち半数以上は海へ!
大西洋への街道はふだんの町なか以上の大渋滞、それでもプライアを目指すブラジル人。
そんなに海岸がいいの?

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高原都市サンパウロの住宅地で見つけたグラフィティ。
プライア:海岸へのサウダージ(郷愁)を感じます。
かくいう私、日常のサンパウロの混雑ぶりにウンザリしていますので、夏場の家族旅行は山間のリゾートと決めていました。
しかし行ってみないことには批判もできんだろう、と数年前に夏場の海水浴場に行ってみたのです。
これが病みつきに!
それ以来、夏に冬に穴場探しを続け、ようやく距離的にも経費的にも納得のいく海岸に出会いました。

サントスの南、サンパウロから車で2時間程度のペルイベという町付近です。
ここより南は環境保護区になっていて、道路も普通の乗用車でアクセスできる限界といったところです。
沖合いに小島を望み、背後には海岸山脈の濃い緑が間近に迫ります。
今回の宿は大西洋を眼下に望む山の中腹にあり、標高およそ200メートル。
潮騒の音と亜熱帯の鳥・虫の鳴き声をステレオで楽しめました。


日系人の生産のおかげでブラジルでも安く買えるゴザを抱えて、あまり日差しの強くならないうちに海岸へ。
犯罪が日常茶飯の大都市に暮らす町の人間の悲しさでドロボーが気になり、海岸にある売店の店員の眼が届くあたりに落ち着きます。

そして最大の楽しみはバチーダ!
ピンガ(サトウキビ製の焼酎)やウオッカにパイナップル、ココナッツウオーター、パッションフルーツなどお好みのトロピカルフルーツとコンデンスミルクを加えたカクテルです。
南回帰線直下の陽射しと大西洋の潮風を浴びながら、冷え冷えで甘美なバチーダをすする時、ややこしいことは忘れてこの上なくブラジルに来てよかった、と全身で感じるのです。

テレビも電話もインターネットも断った数日間の旅を終えて、ペルイベの町に立ち寄りました。
新聞スタンドで目に入ったのが、スマトラ沖の大津波。
10メートルの高波が襲い、陸地を何キロも奥まで…。
もしブラジルの海岸山脈のような高地が海辺にあったら、だいぶ被害は違ったことでしょう。
東南アジアの各地に暮らす知人・友人を思いながら、複雑な気持ちでブラジルのプライアを後にしました。
(西暦2023年1月 加筆)

再録にあたって:
久々の軽チャーエッセイの再録です。
ちょうど18年前に南米を専門とする日本の旅行代理店のウエブサイトに月刊で連載していました。
その筋では大手で老舗だったその旅行社はまさかの倒産となりましたが、ウエブを担当していた編集者のご厚意により、文字データを送ってもらったものに若干の加筆をしています。
スポンサーへのソンタクなしにブラジルの海岸のことを書くならば、初期に到来したヨーロッパ人たちをおびやかした海岸地帯の先住民たちの食人習慣、そして今日の海水浴客をおびやかす吸血昆虫や殺人毛虫などにも言及したことでしょう。
第二次大戦終了後、日本の戦勝と大日本帝国連合艦隊が自分たちを迎えに来るのを信じて大西洋岸で待機し続けた日本人移民の幻影も書き込みたいところです。
さて拙ウエブサイトへの再録にあたって写真を添えようとしたものの…
パンデミックになってから僕はまったく海に近づいていないことに気づきました。
サンパウロの町なかのグラフィティで、プライア:海へのサウダージを感じさせるものを選びました。
(西暦2023年1月9日・記)


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